企業再生のプロが見た地銀の実情と現場力の欠如 島根銀に異例出向した北門信金・伊藤氏に聞く

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北海道の信用金庫職員として、数多くの中小企業を再生してきた実績を持つ伊藤貢作氏。2021年にはその手腕が買われ、島根県の第二地方銀行、島根銀行が外部アドバイザーとして招き入れた。伊藤氏の目に映る、地銀の実情とは。

信用金庫の幹部職員を外部アドバイザーとして招き入れるという異例の決断をした島根銀行(記者撮影)

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「地元の盟主」としてプライドの高い地方の銀行が、信用金庫に教えを請う――。異例ともいえるその決断をしたのは、島根県の第二地銀、島根銀行だ。
島根銀行は2017年3月期に、銀行本来の収益力を示すコア業務純益が赤字に転落。2019年にはSBIホールディングスと資本業務提携を結んだが、行員の現場力強化にはうまく結びつかず、閉そく感が強まる状況にあった。
改革の一環として打ち出したのが、北門信用金庫(北海道滝川市)で企業支援室長を務め、数多くの中小企業を再生してきた実績を持つ伊藤貢作氏を、外部アドバイザーとして招き入れることだった。
倒れかかった企業の中に入り込み、「虫の目」で組織を分析し、再生につなげてきた伊藤氏。金融庁からの信頼も厚く、同庁や財務局が主催する企業支援セミナーなどにたびたび登壇してきた。
苦境に陥っている地銀の姿は、伊藤氏の目に一体どう映っているのか。その実情と地域金融のあるべき姿について聞いた。

 

――地方の銀行は「数が多すぎる」「行員の稼ぐ力が弱い」などとよく指摘されます。実際に現場を経験した上で、どう感じていますか。

地方で人口が減少しているから地銀の数を減らせというのは、やや短絡的ではないか。重要なことは痛んだ地域経済をどう建て直し、いかに持続可能な形に変えていくかということだ。合併などの再編はそのための手段でしかない。

ここ数年、コロナ禍で疲弊している地域を回ったが、再編をした方がいい地域と、しない方がいい地域がある。私が外部アドバイザーとして入った島根県は、再編をしない方がいいだろうと思える地域だった。

取引先シェアの5割超を握る(第一地銀の)山陰合同銀行は、県の主要産業を押さえている。地域の小規模事業者は信用金庫や信用組合がそれぞれのエリアに根付いて支援しており、互いに営業を争ってはいない。(第二地銀の)島根銀行はその中間ゾーンをカバーする位置付けだ。それぞれの役割をきちっと果たしていけば、必ずしも再編をする必要はない。

銀行員の能力は低くない

――ただ、日本銀行の低金利政策が続き、資金需要も年々細っている中で地銀が利益を出し続けることは難しくなっています。島根銀行は2017年3月期に本業のもうけを示すコア業務純益が赤字に陥り、SBIホールディングスが救済に入りました。SBIが出資して資本増強をしてもなお稼ぐ力が弱いからこそ、外部アドバイザーを招聘したのではないですか。

島根銀行はメディアがよくやる地銀ワーストランキングの常に上位にくる銀行だが、彼らと1年間一緒に仕事をしてきて「能力が低い」と感じたことは一度もなかった。

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