性能や品質の低さはメーカーだけの責任ではない。2008年度の防衛省の技術開発の総本山だった技術開発本部の海外視察予算はわずか92万円。しかもこれを陸上装備の開発官(陸将、諸外国では中将に相当)の卒業旅行に使っていた。つまり海外視察は「役得」「ご褒美」の類であり、情報収集のためという認識が極めて低く、防衛省にまともな情報収集の意図はなかった。情報収集すらしない「研究機関」にまともな開発ができるわけがないだろう。
その後、視察予算は1ケタ増えているが、それでも情報収集はおざなりだ。財務省が青天井で視察予算をつけるといっても、現場には財務省が予算を出さないと現場を説得して行かせないようにすらしている。海外の実情を知ると問題があるのだろう。装備開発は軍事的整合性よりも組織内の事情を優先させる傾向がある。
メーカーを指導する能力はあるのか
防衛省ではゴム製履帯や内張り装甲の研究を行った。これらは諸外国ですでに実用化されているが、そのサンプルさえ入手せずに見よう見まねで開発を行い、そしてそれらは装備化に結びついてもいない。それは現在の装備庁になっても大同小異である。メーカーを指導する能力に疑問符がつく。
2019年に採用された19式自走155ミリ榴弾砲は車体中央に幌で覆った席に2名の装填手を乗せている。他国では当然キャビンに収容する。この2名は暑さ寒さもさることながら、NBC(核・生物・化学)兵器環境下では生存できない。そのうえ試作品では装備されていた自衛用の12.7ミリ機銃も量産品では外された。
海自の最新型護衛艦である「もがみ級フリゲート」ではRWS(リモート・ウェポン・ステーション)が2基装備されているが、2基では死角が大きいうえに、本来装備されていた自動追尾装置とレーザー測距儀がコスト削減のために外されており、近接する高速ボートなどを追尾できない。つまり本来のRWSの機能を果たせない。そのくせ搭載されている12.7ミリ機銃はオリジナルのFN社のものより5倍以上高く信頼性の低い住友重機のものを採用している。
1980年代ぐらいまでならば、国産装備が何倍か高く、性能、品質が劣っていても、将来は防衛産業が実力をつけて、自立もして、外国並みのコストと性能品質を実現してくれる、よしんば輸出もして外貨を稼いでくれる、という期待があったのかもしれない。そうであるならば許容できる「投資」だっただろう。当時は財政状況も今のような危機的な状態ではなかった。
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