日本の防衛産業が見限られるのは希望がないから 防衛費をいくら増やしても企業撤退が止まらない

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典型例はヘリコプター産業だ。わが国には機体メーカー3社(川崎重工業、三菱重工業、SUBARU)、エンジンメーカー(三菱重工、IHI)が2社存在するが、川重がエアバスヘリと共同開発したBK117ぐらいで後は、防衛省からの発注に頼っている。民間はもちろん、海保、警察、消防、自治体も外国製ヘリを使用している。そしてメーカーには内外の市場に打って出て軍民両市場で一定のシェアを取り、メーカーとして自立したいという気配が見られない。

対して欧州ではエアバスとレオナルドの2社に集約され、ロシアや中国でもヘリメーカーは1社に集約されている。しかもこれらの企業は世界の軍民両市場を相手にビジネスしている。日本のヘリ産業が生き残れるのか心配してしまう。

国産ヘリは外国製ヘリのライセンス生産が中心だが、生産数が少ないのでコンポーネントの輸入が増えており、事実上組み立て生産に近い。しかも価格は外国メーカーの数倍だ。川重で生産しているボーイングのCH-47チヌークは年に1、2機でしかない。細々と生産するから調達価格はどうしても高くなる。であれば、メーカーを集約して、生産するタームを縮めるしかないが、いまだに実現していない。防衛産業を産業と見ていない証左と言われても仕方ない。

メーカーに高度な技術を開発する気はあるのか

国産装備は調達価格が高いだけではない。住友重機の機銃は40年以上も品質と性能を偽造していた。ミネベアがライセンス生産していた9ミリ拳銃は2500発程度撃つとフレームにクラックが入る。耐用年数はオリジナルのSIG P220より1桁低い。撤退したコマツの装甲車両も価格は概ね同様、海外製品の3倍で性能は低かった。すでにトルコやシンガポール、韓国などのほうがよほど先進的な装甲車を開発している。

メーカーに高度な技術を開発する気はないのだろう。将官OBの天下りを受け入れれば仕事は棚ぼたで落ちてくる。いずも級DDH(ヘリ護衛艦)は当初ディーゼルエンジンを組み込んだ統合電気推進を採用する予定だった。これで、2隻で35年の運用でタービンエンジンに比べて370億円燃料費を低減できるはずだった。ところが燃費の悪いタービンエンジンに変更された。タービンエンジンメーカー関連企業などからの働きかけがあったのだろう。

また当初艦首のバウソナーは搭載しない予定だったが、これまたNECの働きかけで採用されて2隻で200億円以上のコストと、本来不要なソナー要員が配備されることとなった。合計600億円の無駄使いだ。空自の救難ヘリは入札で23.75億円の単価で調達できるとして採用された三菱重工のUH-60Jの改良型が外国製ヘリを制して採用されたが調達単価は50億円以上だ。競合がなく天下りさえ受け入れれば仕事が受注できるなら誰がリスクをとって懸命に技術開発を行うだろうか。

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