好き、求められている、学べるが仕事の3条件--『ムーンショット デザイン幸福論』を書いた奥山清行氏(工業デザイナー、KEN OKUYAMA DESIGN CEO)に聞く
アメリカ、ドイツ、イタリアで25年暮らして身に付けた、奥山流「幸福を探す仕事術」。今、必要なのは「ことづくり」だという。
──最高に幸福だと思える人は、掃除機のダイソン氏ですか。
ジェームズ・ダイソンさんは肌もつやつやで、僕のロールモデルだ。自ら開発したサイクロン掃除機の紙の模型(モックアップ)を持ちながら、世界中を自家用機で飛び回る。行動力の人であり、掃除機に人生を懸けている。
ダイソンさんはフィルターなしにこだわり、ベアリングの一つひとつ、さらにはダニの研究にまで、ディテールにこだわってものづくりをしていく。「神は細部に宿る」といわれるが、掃除機がこんなに面白くなるとは、ほかの誰も想像できなかったのではないか。エンターテイナーとしてもすばらしい。
──ダイソン氏は羽根のない扇風機も手掛けています。
これも急に出てきたのではない。実はダイソン社は、手洗いの乾燥機(クリーンドライ)の技術も持っている。風を起こして水滴を飛ばすあの仕組みだ。それを一歩進め、風の向きを扇風機仕様に変えた。何年も技術的に積み上げ、しっかり検証したうえで商品化したものだ。彼の、ずっと続けるという継続力には頭が下がる。
──この本には、自分自身がライバルとあります。
代表作は、と問われたら、自分の次の作品と答えている。ものを作っていて、何がいちばんつまらないかといえば、自分の前回作のレベルにも達しないことだ。つねに前の自分を超えていく。それも、自分自身で楽しんで、興奮して、最高のものを提供することによって。