好き、求められている、学べるが仕事の3条件--『ムーンショット デザイン幸福論』を書いた奥山清行氏(工業デザイナー、KEN OKUYAMA DESIGN CEO)に聞く
フェラーリは子どもが見てもわかりやすいスーパーカーだ。ポルシェのターボも誰が見ても異質で、空から飛んできたような、それだけわかりやすいものがあった。日本には説明しないとわからないものが山ほどありすぎる。子ども時代の自分の頭の中に残るフェラーリの写真、ポルシェのイメージといった、子どもが見てもわかるものを作ろう。振り返ってみると、そうしたのかなと思う。
──ブランドの重圧はありませんでしたか。
ブランド品に高い値段が付けられている理由は、それを買うことによって、同時にその向こうにある暮らしぶりも見えてくるから。それに必要な対価を、人は払う。だからブランド品は、ライフスタイル全体を作り出して初めて、高価格でありうる。人がブランド品を買うのは手段にすぎない。そのライフスタイルへ向かうドアを開くために買うのであり、それだけ、トータルエクスペリエンスが構築されていることが重要だ。
今、産業全般で、どの方向に行くかさかんに模索がなされている。たとえば、コモディティ化した商品を売っている製造業は熾烈な価格競争で、コンマ以下の利益率といったものばかりになっている。しかし成功している商品もある。それをつぶさに見ると、ハードウエアで利益を上げているのではなく、トータルなインフラやシステムで、人に提供するエクスペリエンスを通じて利益を上げている。コモディティの行き着くところも、ハード単体ではビジネスが成立しない。製造業、サービス業を問わず、産業界のあり方もますます変わってくる。
──電気自動車はどうですか?
電気自動車はハードとしてはホイールの中にモーターを入れる、無人操縦にするなどで、既成の車にないことがいろいろでき、デザインの自由度は高まる。それをどう生かしていくかは、設計者次第だ。この機会に、今までと圧倒的に違う機能を作り出すことも可能だ。いろいろなデザインが競い合える時代が来る。