再び「中絶禁止」論争でアメリカが大紛糾する理由 11月に行われる中間選挙にどう影響する?

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CDC(アメリカ疾病対策センター)によると、2019年は約63万件の人工中絶が報告されており、そのうち過半数が20代で56.9%を占めている。

人種別では白人(ヒスパニック系除く)が33.4%、黒人(同)が38.4%。15~44歳の女性1000人のうち中絶件数は全体では11.3件で、人種別では黒人女性が23.8件と最多だ。この草案が認められた場合、多くの州で人工中絶手術は違憲となり、多くの女性、とくに低所得者層や生活貧困者にとっては大変困難な問題になりかねない。

人工中絶の権利を守ることを訴える33名の有名人

この草案のリーク記事を受け、人工中絶を受ける権利を守るための運動がハリウッド女優、モデル、ファッションデザイナーなどのセレブを巻き込んで拡大している。有名人のニュースを撮り扱う週刊誌「People」のWEB版では33名の有名人たちが、勇気をもって自らの体験を語り、権利を守ることの大切さを訴えている。

週刊誌「People」のWEB版で語る女優のユマ・サーマン(画像:「People」より)

『パルプ・フィクション』『キル・ビル』などに出演した女優のユマ・サーマンは現在3児の母親だが、ワシントンポスト紙に寄せたエッセイで、10代の頃、ヨーロッパで仕事をしているときに、年上の男性に妊娠させられたが中絶を選択をしたことで自分は成長し、現在では必要とされる母親になることができたとつづっている。

世界的な人気を誇るバンド、フリートウッド・マックの歌姫として現在も活動中のスティービー・ニックスは「もし私が中絶していなかったら、フリートウッド・マックは存在しなかったと思う」と語り、子どもがいないことは後悔していないという。「私たちが世に送り出す音楽は多くの人の心を癒やし、人々を幸せにするものだとわかっていたから。それが私の世界の使命だったのですから」と、自らの中絶経験について「The Guardian」に打ち明けている。

『ゴースト』『天使にラブ・ソングを…』に出演したウーピー・ゴールドバーグは、「14歳のときに妊娠が発覚しました。生理が来なかったけれど私は誰にも話しませんでした。パニックになり熱い風呂に入り、ジョニーウォーカー・レッドに漂白剤、アルコール、重曹、クリームのようなものと、ある女の子が教えてくれた不思議な調合液も入れて飲んだ。全部混ぜたので激しく体調を崩しました」などと、エッセイの中で10代の頃の壮絶な中絶体験について語っている。

有名デザイナーであるダナ・キャランは、「1975年、不倫をしているときに妊娠しました。誰の子かわからなかったけれど、ちょうど中絶が合法化されたその週でした」と語り、「女性には何度もどうしたらいいの?ということが起こるけれど、私は同じ立場の女性たち共にあるということを示したかった。経験したことでどのようなものかを理解しているから」と述べている。

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