再び「中絶禁止」論争でアメリカが大紛糾する理由 11月に行われる中間選挙にどう影響する?

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5月15日にワシントンで行われた「#BansOffOurBodies(私たちの体を規制するな)」のデモのワシントンポスト紙の記事の写真(写真:筆者撮影)
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ロシアのウクライナ侵攻の影響で物価の高騰が相次ぐ中、バイデン大統領の支持率が低下している。直近の世論調査(5月25日ロイター/イプソス)によると、大統領就任以来、最低の36%にまで落ち込んでいる。

これは年内に重要な選挙を控えるバイデン大統領、また民主党にとって胃が痛い事態だろう。

具体的には、まず今年の11月に行われる中間選挙で、上院議員は3分の1、下院議員は全員が改選となる。現在、下院は民主党が過半数を占めているが、逆転されるのではないかと言われている。

また、州によっては任期満了の州知事の選挙も行われる。バイデン大統領にとってはこの2年間の評価が下される大事な選挙でもあるのだ。そこで人気回復のためさまざまな対策を講じているが、今後非常に重要になると見られるのが女性票の取り込みだ。

「中絶論争」が繰り返されてきたアメリカ

現地ジャーナリストはこう語る。

「先日、アメリカ最高裁が人工中絶を禁止する法律に変えようとする草案が、ニュースサイト『ポリティコ』にリークされました。誰がどうやってリークしたのかの調査は始まっていますが、それを受けてカマラ・ハリス副大統領が、すべてのアメリカ人の権利が危険にさらされていると発言。また反対する女性たちがデモ集会を開き、セレブを巻き込んでの大きな騒ぎになっています。1カ月前までは、ウクライナやコロナのニュースばかりだったのですが、今はこのニュースで持ちきりです」

アメリカでは、人工中絶は女性の権利として認められている。これは1973年の「ロー対ウェイド判決」によるもので、当時、妊娠していた未婚女性(※匿名のためローという名前を使用)と、中絶手術を行って逮捕された医師が、「中絶手術を禁止しているテキサス州法は違憲である」として、ヘンリー・ウェイド検事を訴えた裁判だ。最終的には原告が勝訴し、条件つきではあるが、女性の人工中絶の権利が認められるという大きな意味を持つ判決となった。

この判決により、女性は妊娠3カ月までの人工中絶の権利を得たのだが、その後は宗教的な立場からの意見などもあり、中絶の条件をめぐってこれまで何度も法廷で争われてきた。そのため、現在まで国民の意見の一致には至らずに「中絶論争」として賛成派と反対派の論争がずっと繰り返されてきた経緯がある。

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