小林薫×阪本順治「リスクしかない仕事をする訳」 清廉潔白だけではない人生を生きて思うこと
――ところで、お二人は初タッグですよね。
阪本順治監督(以下、阪本):初めて仕事をご一緒させていただくとよく「初タッグ」と言われるのですが、いつも「プロレスじゃないんだから……」と思います(笑)。小林さんとは、僕が30代の前半と10年前ぐらいでしょうか。二度、飲食をともにさせていただいたんです。光石研ちゃんも一緒に、(東京)中野のスナックで。
自分が監督業を続けてこられて、オリジナル脚本を書くことが許されてきたときに、小林さんの当て書きができるようになるときが来ると思っていました。『冬薔薇』では、はじめてお会いする若い俳優の方が多かったのですが、小林さんを含むベテラン勢は、スケジュールが空いているかも確認しないまま、ほぼ当て書きです。
脚本のみを書いているプロの方々と僕の脚本の違いは、2点あります。僕はすでに脳内でキャスティングしながら脚本を書いています。僕の脚本は、俳優ありきなんです。この作品でいえば小林さんはもちろん、健太郎や余(貴美子)さん、(石橋)蓮司さんも思い浮かべながら脚本を書きました。
脳内に「タレント名鑑」?
もう1つが、「あの作品のこの俳優さんがいいな」と作品を観てキャスティングするのではなく、小林さんのように生身で会ったことがある人にオファーをしています。俳優さんの、演じていない人となりを見て決めているんです。酒の飲み方や語るときのテンポ、声色や語気などで決めています。
変な言い方ですが、僕の脳内には「タレント名鑑」があり、一度会った人はそこに登録させていただいています。だから、よそ様の作品をスクリーンで観てピンときてキャスティングした経験はほぼありません。
――本作中では小林さん演じる義一が船員にまかないを振る舞うので、個人的には『深夜食堂』のマスター役からヒントを得たのだと思っていました。
小林:あはははははは!
阪本:撮影中、小林さんから「僕が『深夜食堂』に出ていたからですか?」と聞かれましたが、「絶対に違います!」と伝えました(阪本監督がコメント中も、小林さんは大笑い)。
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