小林薫×阪本順治「リスクしかない仕事をする訳」 清廉潔白だけではない人生を生きて思うこと
それぞれのご両親との関係
――まさに『冬薔薇』の義一ですね。
阪本:そうですね。4~5年前に亡くなってからそういったことを思い出す機会が増えました。疎遠だったわけではありませんが、密に交流していたかといえばそういうわけでもない。そういった自分の経験を含めた台詞も、この作品には入れ込んであります。
――小林さんは、ご両親との関係は。
小林:僕は6人きょうだいの5番目。長男は戦前生まれで、戦後生まれが自分なんです。長男と次男は「親父が怖かった」と言っていましたが、僕はかなり年老いてからの子どもだったので、父に強い言葉で叱咤された経験はありませんでした。父に自分がツッコミを入れられるほど、和やかな関係だったんです。ですが長男は第一子で期待されていたせいか、そうでもなかったようです。
父は、叩き上げで働き続けた人で、積極的に遊びに行くタイプではありませんでした。仕事終わりの夜や休日は、いつも家で酒を飲んでいる。そして給料日前になると、酒を飲みながら父がちゃぶ台をひっくり返すという(笑)。文字どおりの、昭和の親父でした。
給料日前になると、鬱屈した思いがあふれ出てしまうんでしょうね。一方で、すごく機嫌がいいときもあり、食後に家族で何か食べようとなるとお小遣いをくれて、駄菓子屋の毛が生えたような店まで買いに行って、ちゃぶ台を囲んで家族団らんの時間をすごしました。
だから、完成作を観て思いました。「この登場人物たちは、自分とすごく近いところにいる人たちだな」と。もし別の人生を歩んでいたら、登場人物のような生き方をしていたかもしれないと胸に迫ったんです。「そんな簡単に生き方をアップグレードはできないんだ」と、身につまされました。
阪本:うちの親父も、ちゃぶ台返ししていましたよ(笑)。僕がちゃぶ台に肘をついた瞬間に、バーンと。「俺の前で肘をついて飯を食うな」と。だから親父を看取った今、僕は思いきり肘をついて飯を食べています(笑)。この作品で健太郎が演じた淳は、実は阪本順治の「順」でもあるのですが、男親と息子の関係は、意外と難しく感じている人が多いのかもしれませんね。
6月3日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
脚本・監督:阪本順治
出演:伊藤健太郎 小林薫 余 貴美子 眞木蔵人 永山絢斗 毎熊克哉 坂東龍汰 河合優実 佐久本宝 和田光沙 笠松伴助 伊武雅刀 石橋蓮司
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