日本人が「思わず手を合わせてしまう」心理の深層 アニミズム的心性を伝えてきた「神道の歴史」

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食事の前に「いただきます」。こうした日常の光景にも長い歴史的背景があるようです(写真:kouta/PIXTA)
現代のパワースポット・ブームや宮崎駿監督や新海誠監督などをはじめとするアニメ映画の隆盛。これらにも、神道に影響を受けた精神文化が受け継がれている。日本の精神文化の古層にアニミズムを見る理解は、多くの人々の想像力をかきたてているのではないだろうか。
このたび『教養としての神道:生きのびる神々』を上梓した神道研究の第一人者・島薗進氏が、その歴史や何気ない日常を通して、神道の実像を解き明かしていく。

針供養から靴の供養まで

針供養はふだんつらい仕事を担ってくれている針に感謝しつつ、よき針仕事ができるように祈る行事だ。2月8日と12月8日が針供養の日とされ、その日は裁縫仕事を休み、折れ針や古い針を豆腐やこんにゃくや餅に刺して社寺に納め、お祓いや供養をしてもらったり、川に流したりした。淡嶋神社がその元と言われている。

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針だけではない。全国の社寺には包丁やメガネの供養碑なども置かれていることがある。東京の玉姫稲荷神社では4月と11月に靴の供養が行われ、あわせて境内で靴の市が開かれる。そういえばある大学生が、「私は靴を処分するときには、必ず手を合わせます」と言っていた。神道系の新宗教、金光教の集いでこの話をしたら、「それは当たり前」みたいな反応だったので驚いた。世界各国の学生に問いかけて比較研究してみたいところだが、私はこれは日本的な宗教性、とりわけ神道と関わりがあると思っている。

被造物に手を合わせることは、一神教が信奉されている社会では偶像崇拝にあたるので、すべきでないこととされる。ところが日本では大いに好まれている。そういえば、食事の前に「いただきます」と言っているのは、お米や野菜、農作物を育てた太陽や水、そして魚や牛や豚や鳥にも向けられているのではないか。庭で育てている草花や作物に毎日、声をかけるという人もいる。生き物はもちろん、物にも心があり、いのちが宿っていると感じる心性があるのだ。

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