アメリカに広がる「減税ラッシュ」思わぬ落とし穴 「生活支援減税」がインフレを加速させる逆説
カンザス州では、民主党の知事が食品関連の売上税を軽減。ニューメキシコ州の議会は4月、ガソリン価格の高騰に苦しむ家庭のために1000ドルの税還付を承認した。今年は、アイオワやインディアナ、アイダホの各州も所得税の税率を下げている。
保守系のシンクタンク、タックス・ファウンデーションによると、州の財政が潤う中でインフレが急速に進んだことから、アメリカ中の州議会で物価高騰の痛みを和らげる策が模索されるようになっている。何らかの減税が実施または検討されている州は36近くに上るという。
これにより、こと税に関する政策においては、普段は鮮明な党派対立の境界が曖昧になってきた。高所得者も含めた恒久減税や、一時的な減税を支持する共和党の動きに、民主党が同調するケースが多い。
過熱経済がさらに過熱
こうした減税策は40年間ぶりのペースで進むインフレを乗り切るすべを人々に与えることが狙いだ。しかし、経済の専門家からは、政治家が解決しようとしている問題そのものをかえって悪化させるおそれがあると警告する声が上がっている。市民のポケットにさらにお金を突っ込めば、ただでさえ逼迫している消費者需要をさらに刺激し、全国的な物価上昇を一段と加速させる可能性がある。
オバマ政権で経済顧問を務めたハーバード大学の経済学者ジェイソン・ファーマン氏は、アメリカ経済は目下フル稼働の状態にあり、購買力のさらなる上昇は需要と価格のさらなる上昇につながると指摘。減税に向けた州の動きは、必ずしもアメリカ経済全体の利益とはならない場合があると語った。
各州には今、資金があり余っている。2021年の経済回復が想定より速かったことに加え、連邦政府が昨年、経済対策として州政府と自治体に3500億ドルの資金支援を行ったためだ。バイデン政権は、支援金を直接の財源とした減税を禁じているものの、多くの州はそうした規定をかいくぐる方法を見つけている。
フロリダ州のロン・デサンティス知事は先日、12億ドル規模の減税案に署名したが、それを可能にしたのは財政収支の黒字だった。フロリダ州財政は、連邦政府による88億ドルのコロナ助成金で潤っていた。共和党所属のデサンティス氏はフロリダ州史上最大の減税だと胸を張り、次のように語った。
「フロリダの経済は国の経済を上回り続けているが、バイデン政権がわれわれに押しつけたインフレ政策との戦いは続いている」