シンクレア教授「若返りと長寿」を語る

生命最古の分子が特効薬に

NMNの臨床試験は早ければ今年始まる予定だ(写真:NHK)

NMNは早ければ2015年に最初の臨床試験を行う予定で、その安全性を確認している最中です。マウスでは体重1キログラムに対してNMN300ミリグラム程度でしたから、大きい錠剤1つ分を1日に1つ飲む程度で済むと思っています。いずれは、これを1週間に1回、1カ月に1回にできないかと考えています。

万能薬の正体は生命最古の分子?

NMNは「ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド」という分子化合物です。バクテリアからマウス、人間まで、あらゆる生物の細胞に存在しており、生命体が作った最初の分子のひとつだと考えられていて、生命維持に必要なエネルギーを生成するのに必須の分子とも言われています。

このNMNが加齢とともに体内から減少するのが老化の原因だと考えています。NMNが減少すると、身体から修復機能が失われます。筋肉が弱くなるのも、記憶が弱くなるのも、これが一因ではないかと思っています。ですから、体内のNMNの量を若いときと同じレベルに戻そうというのが私たちの目標です。

こんなイメージを思い浮かべてください。私たちの体内のたんぱく質には小さな穴があるのです。小さな分子であるNMNはそこに入り込んで、タンパク質を活発な状態にします。具体的には、「サーチュイン」という身体を保護するたんぱく質に入って、活性化します。すると、サーチュインが今度はDNAやほかのたんぱく質にたどり着けるようになり、細胞を修復できるというわけです。

生涯で病気にかかる時間は短くなる

幼い日のシンクレア氏と彼の母親。彼を研究に駆り立てるのは身近な人の病気や死である(C)David Sinclair

私がこのような研究を始めたきっかけは5歳の時に受けた衝撃です。大好きだった母親がいつかは死んでしまうということに気がつき、悲しくて泣きました。そして私自身も友人も、みな同じ宿命であると知り、恐ろしくなりました。大人になるにつれて、みんな「死の事実」にフタをして生きていますが、私には無理です。少しでも「死」に抗いたいと、日々、研究を続けているのです。しかしその母親は、去年9月に肺がんで亡くなりました。NMNが開発された暁にはいちばんに届けたかったのですが、残念ながら間に合いませんでした。

ただ、科学が進歩していっても、「死」は防ぐことはできないと思います。「老い」もなくすことはできないでしょう。でも、それは、ゆっくりになるはずです。そして、きっと生涯の中で病気の時間は短くなることでしょう。私が達成したいのは、たとえば100年に及ぶような時間を、人間が生産的に過ごすことです。

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