「大切な人の死」を意識した患者家族がすべきこと 「第2の患者」として医療やケアが必要な場合も

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告知を受けたとき、比較的冷静な義男さんに対し、美穂さんはとても取り乱した様子でした。しかし、時間が経つなかで整理がついたのか、前向きな気持ちになり、「病気を一緒に克服しよう」と決意したそうです。

義男さんは定期的に抗がん剤の治療を受けることになりました。美穂さんは病気の改善によいといわれる栄養に関する情報などを集め、3度の食事は工夫を凝らして準備したそうです。ほかにも、体によいといわれることはなんでも取り入れようとしました。

義男さんは美穂さんが提案する数々の工夫について、本当にがんに効果があるのか半信半疑でしたが、妻の気が済めばと、おおむね意見に従っていました。ただ、朝昼晩のご飯が玄米になったときはさすがに閉口して、「2日に1日は普通の米にしてくれ」と抵抗したといいます。

告知からしばらくは治療も順調で、がんの進行が抑えられていましたが、1年半経った外来で、担当医から次のように告げられます。

「肝臓の転移が少し大きくなっている兆候があります。腫瘍マーカーもあくまでも参考値ですが、値が上がっている傾向です。現在の抗がん剤に耐性ができて、効果が乏しくなってきている可能性があります」

同席していた美穂さんはとても不安な表情で、「これからどうしたらいいのでしょうか?」と聞くと、担当医は、「別の抗がん剤に変更してみましょう」と提案したうえで、こう返しました。

「今までのように十分にがんの勢いを抑えられる可能性もあります。ただ、抗がん剤は元気な細胞にもダメージを与えるので、まだ先のことかもしれませんが、いずれ使用しないほうがよい状況がやってきます。そのときにどうするか、今後のことも少しずつ考えていきましょう」

義男さんもさすがにその言葉にショックを受けていましたが、美穂さんはそれ以上に狼狽しているように見えました。そして、徐々に呼吸が荒くなり、過呼吸の発作を起こして倒れたのです。

がん患者の家族が置かれる「2つの立場」

大切な人が病気になったとき、家族には2つの立場があります。1つは、「予期悲嘆」を抱え、苦悩を持つ人(第2の患者)という側面。もう1つは、患者さんをケアする人としての側面です(下図)。

ケアに専念するあまり、自らの苦悩を意識しない家族も多い(図版:著者作成)
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