誰もが組織の行く末を案じるなかで、対立するのは何ともバカバカしい。大久保は落とし所を探るべく、岩倉に人事案の修正を申し出ている。
大久保は、木戸の案をのんで、大納言と参議は残し、大納言のみ外務・大蔵・中務省の長官兼任としている。さらに西郷に配慮して、各省官員の大削減をも提案している。それでもなお、当初は難色を示した木戸だったが、ようやく参議の就任を受諾。それでも「暫定的」という条件をつけているのが、木戸らしい。
明治4(1871)年6月25日、それまでの参議と各省首脳部を罷免したうえで、木戸と西郷の2人が参議に就任。三条の右大臣、岩倉の大納言は留任されることとなった。
制度・機構の問題は先送りにされた
その一方で、制度・機構の問題は先送りされてしまう。1カ月も議論を繰り広げたのに、決まったのは西郷と木戸に権限を集中させるということだけ。それでも西郷はほっとして「ようやく政府瓦解が避けられた」と鹿児島に報告している。それだけ明治新政府は危機的な状況だった。
大久保はといえば、参議からは外れ、「卿」という今でいう大臣として、西郷と木戸を支えることになった。大久保は「大蔵卿」に就いている。
まだまだヨチヨチ歩きの明治新政府だが、これでようやく西郷と木戸という実力者をツートップに据える体制ができた。あとは各省に適材適所な人選を行うのが急務だ、と大久保は考えていたことだろう。
ところが、まもなくして大久保は愕然とする。
「ムチャクチャの御裁断」
人事をめぐり、大久保と木戸は再び対立。政府内部は混迷状態に陥る。改革実現への道はまだまだ遠く、困難に満ちていた。
(第31回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』 (講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通?西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛?人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』 (朝日文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬 海援隊始末記』 (中公文庫)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人 『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
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