「海の森水上競技場」が負の遺産を回避するカギ 五輪施設の課題点は認知度向上とアクセス改善
グランドスタンド棟とフィニッシュタワー棟の方には複数の会議室が設置され、企業や団体への貸し出しを念頭に置いている。
前者の第一会議室を例に取ると、利用料は1時間500円。一番広い第4会議室でも2500円という設定だ。すでに後者の会議室ではフィットネスプログラムなどが実施されており、利用頻度を上げていくことが収益アップへの近道になりそうだ。
本題の競技利用に関しても、2022年度は5月のボート・カヌー競技に加え、7月と10月にはトライアスロンの大会も入っていて、少しずつ数は増えているようだ。艇庫棟の2階にあるトレーニングルームには競技者用の特別マシンも複数台設置されていて、アジア唯一の国際基準も備えている。本格的に取り組む人たちにとって、この最新鋭施設は希望の光と言っても過言ではない。
ただ、国内にはカヌー競技者が350人、ボート競技者も1600人程度しかおらず、そちらに関わる人だけに目を向けていたら、年間維持費2億7100万円(2019年段階の試算)は賄えない。収支に関しても、1億5800万円の赤字という見込みではあるが、それを少しでも圧縮し、稼げる施設にしていかなければ、いつかは「負の遺産」と揶揄されるような事態に直面しかねない。そこは目を背けてはいけない現実だ。
施設をアピールできる仕掛け作りはまだ足りない
だからこそ、施設の存在をアピールし、関心を高めるような仕掛けがもっともっと必要だ。大型連休中の体験会や「クロフェス2022」のようなアイドルイベントの実施はもちろんのこと、江東区や大田区といった近隣地域の小中学校生や住民を対象にした見学会を実施するなど、あらゆる形で人を呼び込むアプローチが求められてくる。
「我々は五輪ボランティアに携わった関係で海の森にも来たことがあり、中にも入ったことがあったので、この眺望のよさは知っていました。それを知っている一般の方がまだまだ少ないのは確かだと思います」と前出の来場者グループも話したが、このエリアは中央防波堤外側埋立処分場などが近接する東京湾エリアの遠隔地。周辺に人は住んでおらず、少し離れたところにコンビニが1軒ある程度。滅多に人が近寄らない印象が強いだけに、イメージを変えていくには、相当な努力が必要になる。
「気軽に行ける場所」になるためにはアクセス面が重要ポイントだが、再開業後は国際展示場駅からのシャトルバスが1時間1本。公共交通機関はこれしかない。
となれば、大半の人は車を使うことを考える。駐車場スペースが十分確保されているのはいいことだが、現在はまだ敷地内工事が続いているため、時間制の料金収受システムを導入できない。
このため、係員の費用負担ものしかかり、当面は1日1000円という料金設定になっているのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら