日本が「他国からの脅威」に曝されたらどうするか 現行の制度から考える武力攻撃と日本の対応
③他国が単独で戦う時→物資支援
これまでは、日本やアメリカが共に戦う場合の話でした。しかし、そうした助力が得られずに、単独で戦う場合もあります。こうした場合、何ができるのでしょうか。
想定されるのは、物資の支援です。日本は東アジアにおいて屈指の工業国であり、1950年に勃発した朝鮮戦争時のように、後方拠点として機能することが期待できます。
戦後日本は「武器輸出三原則」のもと、武器の輸出を厳しく制限していました。しかし、2014年に日本政府は武器輸出三原則を廃止し、「防衛装備移転三原則」を策定しました。これは条件付きで武器輸出を認めるものです。
ロシアによるウクライナ攻撃に伴い、日本政府は2022年3月8日に運用指針を変更しました。従来、運用指針では、相手先をわが国と安全保障面での協力がある国としていましたが、ウクライナは該当していなかったためです。
今回のウクライナ支援では、3月8日にウクライナへの防弾チョッキやヘルメットなどの提供を決めました。そして、4月19日にはドローンや化学兵器に対応する防護マスク・防護衣の提供が決定しています。
支援物資として送られているのは、武器・弾薬など殺傷能力を持つもの以外です。武器・弾薬など殺傷能力を持つものの供給については、これまでに行われていませんが、日本周辺での有事となった際には、防衛装備移転三原則に基づき、判断が行われる可能性があります。
法制度は整備されたが実行可能かは不明
ここまで、日本が他国に攻撃された場合、日本周辺の国が攻撃された場合に何ができるかを法制度という点から整理してみました。
これまで紹介してきたように、90年代以降、周辺事態法や平和安全法制というかたちで、日本の安全保障に関する法的枠組みは急速に整備されてきました。しかし、今回紹介したのは、あくまでも法制度に過ぎません。例えば、グレーゾーン事態のように、法律上可能であっても、行うかどうかは時の政府の判断によります。
安全保障体制の議論になると、憲法問題に議論が集中しがちです。しかし、法制度ができたから、自動的に発動するというわけではありません。法律を活かし、円滑な行動を行うためには、政府の判断が欠かせません。
法律はあるけれども、行動できなかったというのでは本末転倒です。日本の安全を守るためにどうすべきなのか、憲法問題だけではなく、総合的に考える必要があるでしょう。
(ライター:加藤博章)
田中佐代子「敵基地攻撃能力と国際法上の自衛権」『国際法学会エキスパート・コメント』No.2021-2
中村進「台湾危機と日米の対応(後編)―日本はどう準備・対応すべきか?」『国際情報ネットワーク分析IINA』2021年5月28日。
防衛省「第5章 自衛隊の行動などに関する枠組み」『防衛白書2021年版』
【著者プロフィール】
加藤博章。1983年東京都生まれ。関西学院大学国際学部兼任講師、一般社団法人日本戦略研究フォーラム研究員。専門は、国際関係論、日本政治外交史、主に日本の国際貢献、安全保障政策。主著に加藤博章『自衛隊海外派遣の起源』勁草書房、2020年。
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