日本が「他国からの脅威」に曝されたらどうするか 現行の制度から考える武力攻撃と日本の対応

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しかし、現代戦においては短期間で事態が推移します。国会での承認を待っていられない場合もあるでしょう。自衛隊法第76条第1項には、「緊急の必要がある場合には国会の承認を得ないで出動を命ずることができる」とあります。この場合には、出動後ただちに国会の承認を求めなければなりません。

日米安全保障条約に基づき、アメリカが介入することになっています。とはいえ、日本の防衛はあくまでも日本が責任を負うことです。日本が何もしないのに、アメリカが戦ってくれるわけではありません。主体はあくまでも、日本になるでしょう。

今までの議論は攻撃を受けた後のこと

今まで議論しているのは、日本が攻撃を受けた後のことです。攻撃を受ける前に何ができるのでしょうか。

自衛隊法第77条では、「事態が緊迫した場合、防衛大臣は内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる」としています。これは、防衛出動が出されることを想定して、部隊を待機させられるという意味です。

②攻撃される前の敵基地攻撃はかなり難しい

一方、昨今議論になっているのが、いわゆる敵基地攻撃能力や反撃能力と呼ばれるものです。

北朝鮮の核・ミサイル実験などで、日本でも敵の基地を攻撃する能力を持つ必要があるとの議論がなされました。日本政府は、1956年2月29日の内閣委員会で、船田中防衛庁長官が代読した鳩山一郎首相の答弁を踏まえ、ミサイル攻撃の防御のためならば、敵基地攻撃を行うことは可能としています。

しかし、可能というのと、実際にできるかどうかは話が違います。2022年現在、日本は巡航ミサイルや弾道ミサイルといった装備を保有していません。理論上は可能でも、実行は極めて難しい状況です。

加えて、攻撃できるかどうかを判断するのも難しいです。

今回のウクライナ攻撃も、ロシアが攻撃を仕掛けたから、国境に兵力を展開していたのは、攻撃準備だったことがわかります。しかし、攻撃開始以前にウクライナが「ロシアが攻撃を仕掛けるから」といって、攻撃をしていたならば、ウクライナの行動が正当化されたかどうかはわかりません。

そして、ロシアはこれをウクライナ攻撃の絶好の口実にしたでしょう。攻撃前の敵基地攻撃は、判断も含めて極めて難しいと言わざるをえません。

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