《プロに聞く!人事労務Q&A》ヘッドハンティングした営業部長を試用期間後に解雇できますか?

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しかし、ご質問では、営業部長という地位を確保、特定して採用していること、人材紹介会社から紹介された人材であることから、その能力、経験が買われて採用されています。つまり営業部長としての役割や職務を履行することが労働契約の内容であり、それがこなされていないということであれば、労働契約上の債務不履行であるといえます。「顧客への対応が粗略」「自社の商品への理解が遅い」などということは、営業部長として採用している以上、使用者としては理解しがたいものです。よって客観的に合理的な理由は存在しているものと判断します。

また、このような地位を特定して採用した場合には、「あらためて就業規則の規定に則り異なる職位・職種への適格性を判定し、当該部署への配置転換等を命ずべき義務を負うものではないと解するのが相当である」(フォード自動車事件 東京高判 昭和59.3.30日)として、解雇を有効としている裁判例が目立ちます。

今般のケースのような地位が特定されている者の解雇の有効性は、比較的認められやすい傾向にあるといえますが、実務的には、まず退職勧奨することにより労使合意を得ながら進めることが望ましいものであり、合意に至らない場合に解雇として取り扱うべきでしょう。

なお、このようなトラブルを避けるためには、営業部長など地位を特定する者を採用する場合、会社がその者に望む役割、職務について採用時に労働契約書に明示すべきでしょう。また具体的な仕事の成果基準、営業成績の基準を明示することも重要でしょう。

朝比奈睦明(あさひな・むつあき)
東京都社会保険労務士会所属。1990年日本大学文理学部卒業。社会保険労務士事務所勤務を経て、2000年4月に社会保険労務士朝比奈事務所を開設。 主な業務分野は、賃金・評価制度等人事諸制度の構築、就業規則作成、社会保険事務アウトソーシング等。著書に「図解 労働・社会保険の書式・手続完全マニュアル」(共著)。


(東洋経済HRオンライン編集部)

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