3年前のウクライナの記憶に辿る戦時対応の背景 オックスフォードのディベートの観点から考える

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1991年の独立からウクライナの庶民の経済状態は混迷を続けました。旧ソ連時代は曲がりなりにも職は保証され、退職後の年金も少なからず支給が期待できました。確かに、西欧の自由な社会は魅力的です。   

しかし、それまでの誰かに従うだけで良い時代から、西からの急な市場経済の洗礼に戸惑う人々も多かったのです。誰が、何をすべきか考えるのに、準備が十分はありませんでした。

このため一部の権力者などに利権が集中し、さまざまな組織は汚職の寝床となる状況も続きます。社会が混乱する中で、以前の旧ソ時代の方が、ましだと考える人も少なくなかったのです。若者も、学んだ知識を生かす場所を探すのは容易ではありません。オレクサドルの場合は語学力と地理的な知識を使い、さまざまな調査のガイドを続けていたのです。

願いの叶うトンネル

オレクサドルのとっておきの場所を案内してもらえることになりました。車で長時間かけて着いたのが、前述の「愛のトンネル」です。ここは、ウクライナの若い世代が訪れる場所です。経済状態が良くない中で、お金をかけた遊びなどはできるはずもありません。彼は、ある女性と出会い、交際を続けました。そして、このトンネルを2人で歩くと、以降固く結ばれると聞いたのです。

愛のトンネルは貨物列車が通る線路上にあり、クレーヴェンからオルツィブという所まで、6キロ以上も続いています。まれにしか通らない列車のせいで、森の木が生い茂り、まるで緑のトンネルのように覆いかぶさっています。木々の間に光が差すと、不思議な緑色のグラデーションを醸し出します。

オレクサドルが共に歩いた女性が今の奥さんです。子供ができ、旅行に連れて行こうと考えたのですが、余裕がなく、遠出はできません。2人は新婚旅行もできていなかったことを思い出し、2度目は、子供と3人で森の緑の線路の上を歩きました。

このトンネルを有名にしたのは日本の映画監督だ、と話してくれました。

(※注 作品名:『クレヴァニ、愛のトンネル』 (監督:今関 あきよし)2014年公開)

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