「村の原理」と「都市の原理」に折り合いをつける 実は大事な「昔から続いてきた」「めんどくさい」

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これは1つの例にすぎませんし、ここに男女や地域、障害や国籍など、複数の問題が重なり合ってきます。つまり、むしろ社会が近代の原理だけで組み立てられればられるほど、お金がないことが「不自由」な状況へと人びとを追い込むことになってしまいます。

目的は現状維持

近代の原理だけで回る社会は、すべて経済格差の問題が関わってくることになります。そしてお金を稼ぐプロセスが平等に開かれていないとなると、どんどんこの格差は拡大していきます。格差の拡大がこのまま進行すると、少数の富裕層と多数の貧困層に分かれていきます。

これではマズい。ということで、これからの時代は近代と前近代の原理を併用しつつ、自分たちの生活が経済的な問題だけに左右されないことが重要になるのだと思っています。ぼくは『手づくりのアジール』でこのように書いています。

太平洋戦争後、日本社会高度経済成長期を経て、人びとの自由な時間を増やすことに成功しました。しかしその自由は「めんどくさいもの」をアウトソーシングし、すべてを交換可能な商品に変えたことによって成立していたのです。そこでは、人は労働力として市場に奉仕することで対価を得て、そのお金により商品を買うことで自由を得ていました。いわゆる戦後社会とは、一言でいうと、このような社会だったといえます。さらに問題なのは、この社会の前提は工業化であり、可能性、無制限の思想を基礎にしたものだったということです。しかし、これからの社会はそうはいきません。例年被害が増大する気候変動と、さらに拡大する社会格差はいずれも、これまでの社会のままではやっていけないことをはっきりと示しています。(『手づくりのアジール』244頁)

そこで、これまでの社会を変えるためにキーとなるのが前近代の原理です。前近代の原理は非商品化です。非商品化とは市場に流通させないということ。そのためには規格を作らないことや、誰にとってもわかるようにしないということも含まれます。対価をつけないこととも言えるでしょう。現代社会は近代の原理で回っていますので、非商品化をイメージするのは難しいかもしれません。

青木真兵(あおき しんぺい) /1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークにしている。2016年より奈良県東吉野村在住。現在は障害者の就労支援を行いながら、大学等で講師を務めている。著書に、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』『山學ノオト2』(共にエイチアンドエスカンパニー)のほか、「楽しい生活──僕らのVita Activa」(内田樹編『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』所収、晶文社)などがある(撮影:青木海青子)

冒頭にも書いたとおり、ぼくたちは人口1700人の山村に暮らしています。ご近所さんもどんどん減っており、地域の連絡員や共同墓地の清掃、お宮さんの役員など、本来は昔から村に住んでいた古参住民の役割だった仕事が、新参者にまで任される状況です。そのようなわけで、地域の会議に出席することがあります。会議に出席するとわかるのですが、村の原理の特徴は話を前に進めないこと。目的は現状維持。継承することそれ自体を目指します。

しかしこのことが即悪だとはぼくは思っていません。

上記の『手づくりのアジール』の言い方をすると、「めんどくさくする」とも言い換えることができます。前近代の原理は「めんどくさいもの」を「めんどくさいまま」持ち続けることを意味しています。

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