「村の原理」と「都市の原理」に折り合いをつける 実は大事な「昔から続いてきた」「めんどくさい」

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村の原理にはもう少し自己責任による自由な選択肢を、都市の原理にはもう少し自然環境による有限性を引き受けることが求められます。この2つの原理を併せ持ち、折り合いをつけて生きていくことをぼくは「土着する」と呼んでいます。理想と現実。個人と社会。自然と人間。男と女。「土着する」ことは「長いものに巻かれる」のとは違います。これからを考える場合、今までのように近代的な原理という外来種をそのまま持ち込むのではなく、前近代的な原理という在来種を駆逐しないように、むしろ在来種と外来種が合わさることで新たな種を誕生させるように生態圏を整える必要があるのだと思います。そのヒントを内田先生は以下のように述べています。

1969年、私が予備校生だった頃、東大全共闘が三島由紀夫を招いて討論会を催したことがあった。三島由紀夫は単身バリケードの中に乗り込んで、全共闘の論客たちと華々しい論戦を繰り広げた。(中略)そのときに、三島由紀夫は「天皇」という一言があれば、自分は東大全共闘と共闘できただろうというその後長く人口に膾炙することになった言葉を吐いた。当時の私にはその言葉の意味が理解できなかった。だが、その言葉の含意するところが理解できるようになるということが日本における「政治的成熟」の一つの指標なのだということは理解できた。(『街場の天皇論』233頁)

なぜ三島の、「『天皇』という一言があれば、自分は東大全共闘と共闘できただろう」という言葉を理解することが、「政治的成熟」と結びつくのでしょうか。これまでの話でいうと、前近代の論理であり、かつ近代の論理を超えた「論理」を三島は「天皇」という言葉で表したのではないでしょうか。つまり万物の商品化を食い止め、有限性をもたらすものの生態圏を形成する、日本的言葉遣いとして「天皇」があるのではないか。そんなふうに考えています。この存在を知覚したうえで、近代の原理と折り合いをつけていく。これが「政治的成熟」であり、「土着」です。

政治的成熟としての「山村デモクラシー」

無限に基づく社会デザインは、これから先は通用しないでしょう。無限に基づくということは、青天井の経済成長を意味します。しかしそれは自然を制圧するテクノロジーだったり、人力では及ばない工業的な道具を使わないと達成できません。

『手づくりのアジール』(晶文社)(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

確かにテクノロジーの力をもってすれば、山も平らにできるし、海も埋め立てることができる。地中深くにトンネルを通して、東京と大阪をすさまじいスピードで結ぶことも可能となります。

でもそうした悪い意味でのゼロベースというか、シミュレーションゲームのマスにように真っ平らであるはずはありません。そこには必ず森や山があり、地下水が流れ、人が住んできた歴史があります。もちろん人以外の動植物もたくさん暮らしている。それらすべてをなかったものにして、一からつくりたいものをつくることのできる力を人間は持っています。

しかしそういう力を誇示する仕草が「人類の夢を叶える」ことだという考えこそ、ぼくは限界が来ていると思っています。

その土地の歴史、植生などを考慮したうえで、みんなで意見を出し合い、何ができるのかを生態圏のなかで考える。それが土着であり、「天皇」という言葉で示したものと折り合いをつけた社会をつくる、「政治的成熟」です。ぼくはこの状態を有限性を含んだ民主主義という意味で、「山村デモクラシー」と呼んでいます。

青木 真兵 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士

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あおき しんぺい / Simpei Aoki

1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークとしている。2016年より奈良県東吉野村に移住し自宅を私設図書館として開きつつ、現在はユース世代への支援事業に従事しながら執筆活動などを行なっている。著書に『手づくりのアジール──土着の知が生まれるところ』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(エイチアンドエスカンパニー)などがある。

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