「百貨店は誰もが毎日のように訪れる場ではありません。基本的にニッチな小売業であることを忘れてはならないと思います。どういうニッチであるかが大事であり、上質なもの、特別なもの、感度が高いものについて、選んでもらう店にならなくてはいけないのです」
細谷さんはそう言い切った。
「アパレルだけに絞ってみても、お客様の暮らしを取り巻く環境は、給料も上がらないし、通信費はかかるし、お金の使い方がいろいろなところにいっている。そのなかで中間層の方々は、5万円のジャケットじゃなく、5000円のものでいいじゃないという買い方になっている。それをまた5万円に戻そうというのは、無理だと思うんです。だとすると、ファッション業界は、それと違うところで勝負するしかない」
リモートでの仕事が増えていく中、仕事着や外着としてのファッションの意義が問われている。「家で仕事するから部屋着で十分」、「上半身だけきちんとしていれば下は見えないからジャージでOK」。だから、新しい服はいらないと言った声はよく耳にする。
「時代とともに、ライフスタイルも価値観も変わるのは当たり前なので、そういう趨勢は確かにあると思います。ただ百貨店としては、どんどん新しい提案をしていかなければなりません」
百貨店の商売の根本は2つ
では、具体的にはどういう策を打っていくのか。
「三越伊勢丹ならではの独自性を磨き続けることが大事で、『ここにしかない限定性、稀少性』を追求し続けなくてはなりません。お客様と世の中の状況をつぶさに観察し、半歩なり一歩先をいく提案が必要です」
百貨店としての先見性と目利き力が問われていく領域であり、もともと伊勢丹が得意としていたところだ。では細谷さんは「伊勢丹らしさ」「三越らしさ」をどうとらえているのか。
「大前提として、僕らの商売は『お客様の嫌なことを感動的に解決するか』『お客様の関心ごとを革新的に提案するか』の2つが根本だと思っているんです。そのとがり方が、伊勢丹はファッションであり、三越は伝統、文化、芸術、暮らしだと。それをサポートするためのものとして、“マーチャンダイジング力”と“おもてなし力”という整理の仕方なんです」。
「三越と伊勢丹って2008年に統合したのでもう14年になりますが、統合した強みを、もっと商売のなかで生かしていかないといけないとも思っています。“マーチャンダイジング力”と“おもてなし力”の組み合わせを推進していきたいと。その代表例が外商改革なんですね」
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