日本の農林水産業 成長産業への戦略ビジョン 八田達夫、高田眞著 ~政策の誤りによる農林水産業の衰退

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日本の農林水産業 成長産業への戦略ビジョン 八田達夫、高田眞著 ~政策の誤りによる農林水産業の衰退

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 多くの人は、生産性の低い農業の保護がTPP(環太平洋経済連携協定)への日本の参加を難しくし、工業製品輸出を困難にしかねないと懸念しているであろう。GDPの1%にすぎない農業が輸出部門の成長機会を脅かしていることは、由々しき事である。しかし、問題はそれだけではない。先進各国では農業そのものが高い生産性を持ち、有力な輸出部門となると同時に、若者を引きつける成長産業となっている。

本書は、日本の農林水産業の生産性を引き上げ、多くの若者が参入する成長分野にするための方策を経済学的視点から体系的に分析したものである。類書との違いは、林業、水産業についても十分な紙幅を割いている点である。国際経済学の教えによれば、豊富な生産要素を抱える分野が一国の成長産業となる。実際、フィンランド、ノルウェーは世界的な水産物輸出国である。なぜ豊富な林業資源、水産資源を抱える日本の林業、水産業に競争力が乏しいのか。評者の長年の疑問に、本書は明快に答えてくれる。

まず農業問題。高率の関税や減反政策、農地法による参入規制など、米作兼業農家を保護するための政策が、農業全体の生産性を大幅に引き下げている。改革の方向は明らかだが、政治的反発は必至で激変緩和措置が必要である。著者は、今後の生産量に関係なく、過去の生産実績に基づいた所得補償を提案する。確かに、この政策なら現在の戸別所得補償と異なり、兼業農家の農地貸出を促し、農地の集約によって主業農家の米作規模が拡大され、同時に米価低下で消費者もメリットを受ける。

農業の低生産性の原因が政府の失敗であるのに対し、林・水産業については市場の失敗が原因で、それを補正する適切な政策の不在が問題だと論じる。

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