世界で高まる「ロシア嫌悪症」に注意すべきだ プーチン氏と国民をつなぐ“魔法の言葉"

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2018年12月、ロシアの有力紙「ベドモスチ」は、「ルッソフォビア」の乱発についてこう皮肉った。「ルッソフォビアと言う言葉は、外交上の緊張関係の原因を国民に話すうえで万能の説明になった。外務省やクレムリンに忠実なメディアのみならず、国家トップの辞書にも加わった」。米欧からさまざまな批判を受けてもこの言葉で国内に説明しておけば、詳しい事情に立ち入らなくても国民は「そうか、原因はルッソフォビアなんだ」と一種の思考停止状態のまま政権を支持してくれる便利な言葉なのだ。

しかしルッソフォビアの乱発は単なる世論対策ではない。19世紀にロシアの思想家が唱えた過激な民族主義的国家論に、プーチン氏が急激に傾斜していることが背景にある。

2人の極右民族主義者の思想

2021年10月、ロシア専門家を招いた国際会議でプーチン氏は、最も愛読している本として、20世紀前半の思想家イワン・イリイン氏の著作を挙げた。欧米の専門家から「ファシスト的民族主義者」と酷評されている同氏の主張は簡単に言えば、「ロシアには他の民族にない特別の使命があり、ロシアを守るためには周辺国との戦争が必要だ。そのために軍事的国家制度が必要だ」。ウクライナについては「ロシアから分離されたり、占領されるという点で最も外国から脅威を受けている場所」だから、死守するよう呼び掛けていた。

プーチン氏は2021年7月に発表した論文で、ロシア人とウクライナ人が「1つの民族で、ウクライナはロシアとの友好関係の中でのみ主権が可能になる」との脅迫的主張を展開したが、この言説の下敷きにあるのがイリイン氏の思想と言われている。

プーチン氏の思想的土台になったのがイリイン氏とすれば、プーチン氏周辺では現在、より狂信的な2人の極右民族主義者が存在している。

1人が「プーチンの脳」とも呼ばれているドゥーギン氏だ。同氏が極右派ネットテレビ「ツァリグラド」のサイト上で「ウクライナなしにロシアは帝国になれない」と主張。侵攻に対しては「この危機的時期に特別作戦開始を決定した。これは当然で論理的な一歩だ」と熱烈に讃えた。このサイト上では、捕虜となったウクライナ人兵士らがロシア兵士の前にひざまずかされ「ロシアの一部であるウクライナ」と絶叫させられている映像がアップされている。

プーチン氏がドゥーギン氏の主張を100%取り入れているかどうかは、専門家の間では意見が分かれている。事実、ドゥーギン氏は最近のウクライナとの和平交渉を批判して、ウクライナ全土の制圧を主張している。

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