山折:聞くということは非常に大事だと思いますね。語りの前にまず聞く。聞いて初めて語りが始まりますから。こちらにお邪魔して、まず最初に聞いたのが蝶々の羽音でしたね。あれには惹きつけられました。
中村:そうなんですよ。それぞれがいろいろな思いがけないことを語ってくれます。クモもそうでした。クモの研究を始めたきっかけは、クモについてわかっていないことが多いからですが、京大から来た研究者が、汚い実験室の隅に、オオヒメグモが巣を作っていたのをとってきた(笑)。ところがこのオオヒメグモが、とても研究に向いていたのです。運がよかったのですね。
山折:しかしあれは愛づる気にならんなあ(笑)。
中村:いや、かわいいですよ。お見せしましょうか。クモが産む「卵のう」という袋の中に300個くらい卵が入っている。透き通っていてきれいです。この300個が全部一緒に育つのです。よく「蜘蛛の子を散らす」といいますが、この300匹が一斉に育つわけですから、これが研究にいい。生育段階を比べることができる。一緒に生まれた卵を並べておいて、時間差で観察すれば、誕生の経緯を調べられます。
生物研究は人間研究に繋がっている
山折:ファーブルはハチとかアリは研究しているけれども、クモも研究していますか。
中村:クモは昆虫ではないのです。
山折:あ、そうか。じゃあ何ですか、あれは。
中村:鋏角類といって、カブトガニの仲間です。だいたい足の数が違う。昆虫は足が6本ですが、クモは8本。
山折:どちらが進化していますか。
中村:多分クモのほうが先に分かれたと思います。
山折:そうすると、クモのほうが人間の進化の源のほうに近いということですよね。そこまで昆虫や鳥や魚なども含めて研究されているなら、それをモデルにして人間の分析してくださいませんか。きっと面白いことになります。
中村:もちろん最終的には、これはみんな人間につながっていると思いながらやっています。バクテリアから何から、全部人間につながっています。何を研究するときも人間につながっていると思っています。
山折:最近、猿の研究では、チンパンジーは攻撃的だけど、ボノボは非常に平和思考的だとわかったそうですよ。
中村:そのとおりです。ボノボは争いの避け方が巧みで興味深いですね。山極寿一さんが、ゴリラも穏健だと言ってらっしゃいますよね。ゴリラはボスが群れを支配するようなことはなく、平和なんですって。喧嘩しても必ず仲裁が入って、勝ち負けが決まらないそうです。
山折:インドのガンジーさんなんかは、ゴリラかボノボですね。
中村:みんながゴリラとボノボになればいいですね。生き物から学ぶことがたくさんあると認めていただけたら嬉しいです。今日はどうもありがとうございました。
(構成:長山清子、撮影:ヒラオカスタジオ)
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