意識しているのは「楽天経済圏」に違いない。楽天IDの数は約1億と、日本の人口の約8割をカバーする数字で、年間ポイント発行額は5300億(2021年度)で、地方自治体の予算かとも見まごうものだ。
「楽天経済圏」の要は、楽天カードと、それを軸にした付与倍率アップの仕組みである「スーパーポイントアッププログラム」(SPU)。楽天のサービスを利用してもらえばもらうほど付与率がアップし、また銀行・証券・保険などのグループ金融機関のクロスユースで、さらに貯まる仕組みを作り上げた。
ポイントが貯まれば、利用者はまたそれを使ってくれる。新たな消費に対し、さらにポイントをつければ、永遠に自社の経済圏にいてくれるというわけだ。ポイントを仮想通貨と見立てれば、楽天ポイントは日本で最も取引量が多いデジタル通貨と言えるのではないか。
しかし最近、その楽天経済圏はネガティブな話題に上がることが多い。ポイント付与の条件が変更になったり、これまでSPU対象だったサービスが入れ替わったり、「改悪か」と囁かれることが増えた。4月からはポイント対象となる金額を消費税込み金額から消費税を抜いた金額に変更した。10%分相当のポイントが減ることになり、経済圏の住民からは今後を危惧する声も上がっている。
楽天の強みは、なんといってもECだろう。楽天市場、トラベル、ブックス、デリバリー、ラクマ等を含む2021年度の国内EC流通総額は5兆円を達成した。共通ポイントとはいえ、自社のサービスを訪れてくれる客がメイン顧客といっていい。
対してPayPayは、決済そのものが大きな軸となる。他のポイントとは違い、物理的なポイントカードは発行されない。カード提示のみでは貯められず、あくまで決済に伴うポイントとして付与されるので、使えば使うほど貯まる。また、使用される場はYahoo!ショッピングやヤフオクなどのオンライン決済もあるが、どちらかと言えば実店舗の加盟店での使用が多い。キャンペーンもそれを意識して次々打ってきた。特に、モバイル決済を押さえている点は大きい。
Pontaや楽天ポイントも、それぞれauPAY、楽天ペイという決済アプリの残高としても使えるが、このジャンルのトップはPayPayが固めている。そうなると、経済圏の方向も違ってくるだろう。使う場所はリアルなのか、オンラインなのか。そのライフスタイルによって、消費者はどちらの経済圏が自分に向いているか判断できるのではないか。
リアル店舗にシフトする楽天の一手
3月10日に楽天は新しい事業戦略を発表した。これまで「楽天西友ネットスーパー」で協業してきた西友と、実店舗でも楽天ポイントを介したデジタルマーケティングに取り組む。4月26日からは楽天ポイントカードが西友全店で使えるようになり、店舗での買い物に使えるポイントとして貯まるようにもなる。
スーパーやドラッグストアに行くとわかるが、買い物客はせっせと店のポイントを貯めるものだ。西友は、その店でしか使えないポイントではなく楽天ポイントを選んだ。特に実店舗の利用客は60代70代も多いという。そうした客に、楽天ポイントと親しんでもらうきっかけにもなるだろう。高齢層が多く利用するドラッグストアも、楽天ポイント導入済みチェーンは多い。リアル店舗同士でのクロスユースも期待できる。
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