その理由は、冒頭で述べたように、日銀が、あえて円安が進むような金融政策をとったからである。無制限指値オペの連日の実行だけでなく、それ以外の通常の国債買い入れを倍増させ、さらに、イールドカーブコントロール政策で明示的に約束している10年物の国債だけでなく、それ以上の満期、20年物などの超長期債までも、買い入れの予定になかったにもかかわらず、急遽買い入れを行ったのである。
日銀だけがあえて円安を指向した
これは、大事件だ。
これを行えば、円が急落することは当然予想されたはずである。しかし、それでもあえて行ったのである。しかも、明示的にコミットしている10年国債金利0.25%を死守するだけでなく、それ以上の期間の金利をも低下させようと、積極的にサプライズを起こした買い入れを行ったのである。
これは、大事件どころか、「大大大事件」である。
なぜ、こんなことを日銀が行ったのか。
日銀は、これまでも金融政策に失敗したことは何度かある。もっとも大きなものは、1985年のプラザ合意後の急激な円高に対して、金融緩和を継続したことである。この結果、国内不動産市場、株式市場、そして実体経済にも、日本の歴史上最大のバブルに拍車をかけることになった。これは、円高不況と言われ、政治的に「何がなんでも円高を止めろ」、という政治の圧力に抵抗できなかったからである。
これは失敗だが、当時としてみれば仕方がない面もあり、理解できる。しかし、今回は、政治的な圧力は逆方向なのである。輸入価格の高騰による物価高を抑える、そのために円安はなんとしても抑える、という政治的圧力なのである。しかし、それに抵抗して、円安を指向したのである。しかも孤軍奮闘して、日本銀行だけが円安をあえて指向したのである。
政治的圧力もなく、メディアの圧力もない。世論はもちろん輸入価格上昇を抑え、物価高を回避してほしい。それでも日銀が円安を指向したのはなぜか。
黒田総裁が、円安指向であるのは事実である。だが、現在の状況では必ずしも円安が良いとは言えないことは、記者会見で彼がどう答弁しようが、わかっていないはずはない。メディアは安直に日銀、黒田総裁を批判するが、彼らはプロ中のプロ、セントラルバンカーである。一般メディアにわかることがわからないはずはない。
では、いったいなぜなんだ?
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