東大卒落語家が「寝てない自慢芸人」を羨まない訳 人生で最も尊い「たこ焼きを食べる時間」の幸福
『タイム・スマート』には、お金で幸せは買えることもあるけれど、時間を優先したほうが幸せになりやすいと書かれています。
いま、コロナで落語会がだいぶ減ったんですけど、本も読めるし勉強もできる。だから、タイム・リッチ! 悲観的には考えていません。
落語の中に登場する「先生」という愚か者
人間には、本質的な欲望として、衒示(げんじ)的欲望というものがあります。「俺の学歴はこうだ」「こんなバッグや時計を持っているぞ」という人が羨むことを、見せびらかして自慢したいという欲望です。
また、人を見て、欲望を刷り込まれてしまうこともあります。となりの人がアイスクリームを食べていると、自分も食べたくなる。本当は、カラオケもゴルフも好きではないのに、付き合ってしまう。その結果、自分の時間が食われてしまい、タイム・プアになる訳です。
そして、この衒示的欲望こそが、タイム・リッチであることを阻んでいるのだと僕は思っています。
他人が求めているような「年収1億円だぞ、ワハハ」という自慢をすると、欲望は満たされます。でも、例えば、たこ焼きが大好きで、食べることに無上の欲望を感じていたとしても、それを他人に自慢することはないでしょう。
その人が、本当に自分の好きなことをしているなら、自慢する必要がなくなる訳です。
しかし、SNSなどを通して、「いかに自分がイケてるか」を見せびらかすことそのものが、産業化されてもいます。本当は、競争する必要はないのに、衒示的欲望を刺激されて競争させられ、さらに働くことになるという仕組みもあります。
そこから脱却するためには、「別にユニクロでもいいじゃん」と考えることですね。若いうちはしょうがないと思いますが、オッサンになったら、もういいでしょう。
インスタに「映える」料理をアップすることが流行っていますが、定食屋の定食がいちばんうまいんですよ。人と比べて優越感を得ることで感じられる幸せと、自分の中だけの幸せとは違います。
多くの人は衒示的欲望に身を任せて、つまりタイム・プアに埋没して、自分をだまして生きているところもあるかもしれません。本当の自分を見つめなおすのは大変ですが、時間とお金は、効用関数です。何に幸せを感じていて、人生をどのようにマネジメントしていきたいかというのは、現代人が誰しも抱えている悩みでもあります。その意味でも、『タイム・スマート』が多くの人に読まれるといいですね。
落語の中では、衒示的欲望は相対化されています。例えば、「先生」というのは、得てして「底の浅い愚かな人物」を意味します。つまり、「先生、先生」とおだて奉られて、喜んでいる愚か者、ということ。高級車や高級ブランドを自慢している人は、つまりは「先生」なんです。
落語は、まさにタイムリッチの世界です。ぜひ、「水屋の富」という落語を聞いてみてください。とても面白いですよ。
(構成:泉美木蘭)
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