ウクライナ国民が直面する「コロナ感染の危機」 戦争最大の犠牲は戦死より「戦病死」という史実

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ポーランドに逃れたウクライナの避難民のうち、約50万人がメンタルヘルスの手当てを必要とし、推定3万人は深刻な状態だという(ロイター)。

わが国でいわゆる「避難民」を経験した人は、太平洋戦争の引揚者など後期高齢世代のごく一部だろう。しかし、日本は震災や津波の「被災者」の多い国だ。経緯こそ大きく違えど、避難民と似たような境遇に置かれた方々も少なくないことと思う。

避難所生活は、プライバシーもなく、衛生管理も難しい状況だ。仮設住宅に入れても、家族を失い、職を失い、生活のすべてを失った方々の悲しみと苦労は、察するに余りある。

また、東日本大震災から11年が経過したが、今も福島第一原発周辺には、放射線量が高くて住民が戻れないままの帰還困難区域が残っている。当時、着の身着のまま避難し、その日から大きく人生が変わってしまった人たちが何千、何万人といる、ということだ。

同様にウクライナ住民も避難民も、またその受け入れ国の人々も、終わりの見えない戦争の中で、身体も心もストレスにさらされ続けている。

ワクチンを打てる「当たり前の日常」の尊さ

ロシアが侵攻し、戦争状態に陥った経緯には、当事者にしかわからない政治的背景や根深い民族問題等があるのだろう。情報も錯綜し、素人が外から安易にもの言うことはできない。

だが、戦争とは要するに大量殺戮だ。人命と健康、そして日々の生活、人生そのものを奪う。直接的に人々が殺傷されるだけでなく、感染症の広がりや医療の停止で身体が蝕まれ、緊張と不安、絶望の中で心もすり減っていく。

侵攻側のロシア兵の多くも、本意ではない戦争に参加し、劣悪な環境に苦しみながら次々と銃弾に倒れているという(有色系の少数民族が3~5割との指摘もある)。

人々の命と健康を守ることを使命とする医師として、そのような事態には憤りと悲しみがこみ上げる。ウクライナや避難民の受け入れ国へ、医療物資の提供など日本にできる人道的立場からの医療支援の強化を支持したい。

一方で、ウクライナの子どもたちの各種ワクチン接種率の低さには、正直ショックを覚えた。日本の子どもたちは、ワクチンの接種体制には恵まれている。

遅れていたHPVワクチン接種も、ようやく9価ワクチンを定期接種化する方針が厚生労働省の専門家部会(3月4日 第18回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会)で了承され、欧米先進国に追いつこうという姿勢は見えてきた。

麻疹などコロナで影を潜めていた感染症の再燃は、日本も他人事ではない。どうか日本の子どもたちには、ワクチンの恩恵をもれなく享受してほしい。平和の中にいられるからこそワクチンも打てる、そんな当たり前の日常の尊さを思い、大切にしてもらえたらと思う。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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