今回、ウクライナの人々は地下防空壕などに身を寄せて戦火を逃れている。首都キエフには冷戦時代に作られた地下防空壕が5000以上あり、なかには100m以上の深さに位置し2000人を収容するシェルターもあるという。
地下シェルターに籠もれば、砲撃から命を守ることはできそうだ。
だが、新型コロナでは、「換気」と「ソーシャルディスタンス」が感染予防のカギとなる。古い地下施設とあれば換気は最低限だろうし、人が集まれば「3密」となるところもあるだろう。
ウイルス伝播を助ける環境が整ってしまう。
加えて、衛生管理(さまざまな病原体の接触感染・経口感染の予防)に欠かせない上下水道や汚物処理の状況も気がかりだ。
WHOは3月17日付の報告で、ウクライナ国民の健康上の懸念を列挙している。
特にハイリスクとされているのが、新型コロナのほか、ロシア侵攻前からワクチン接種率の低下していた麻疹(はしか)と、結核やHIVなどいくつかの慢性感染症の蔓延。さらに医薬品の入手困難による、心筋梗塞などの心疾患や、ぜんそくなどの慢性呼吸器疾患の悪化。そして、メンタルヘルスの問題だ。
報道(JNN)によれば、ウクライナでは今、人々は基本的な医療も受けられていないという。「妊婦は産前も産後も医師に診てもらえない。持病のある人は薬が手に入らない。そして子どもは予防接種も受けられない状況です」とWHOの広報担当者が訴えていた。
今回初めて知ったが、ウクライナの子どもたちはもともと東欧諸国と比べてもワクチン接種率が低い。多くの国で97%以上の接種率を達成しているBCG(結核)やDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合)、ポリオ、B型肝炎などで、ウクライナの接種率は8割程度にとどまっている(WHO報告3月17日付)。
WHOも懸念する「避難民」の健康
いずれの健康問題も、戦禍を逃れただけで解決するわけではない。周辺諸国に逃れた避難民の多くも、やはり「3密」を避けられず、医療を満足に受けられない状況にある。
再びWHO報告(3月24日付)を確認すると、ウクライナの人口約4400万人のうち、すでに300万人近くが国外へ脱出した。18~60歳の男性は出国が禁止されたため、そのほとんどが女性と子どもで、子どもだけで100万人に上る。
これまでに最多185万人を受け入れているポーランドのWHO担当責任者からは、避難民施設で発熱、下痢、低体温症、上気道感染症や心不全が報告されている(CNN)。発熱や上気道感染症には、かなりの割合で新型コロナが含まれるはずだ。
戦争が長引くほど、身体の健康のみでなくメンタルヘルス上の懸念も高まる。
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