花粉症の人の仕事効率「いつもの6割程」の大問題 国内だけでなく「世界」でも患者数は増加の深刻

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海外においても、地中海地域では、花粉生産量の多い樹種の植栽を制限することが提言されている事例や、花粉飛散量を減少させるために、フランスではヒノキの刈り込みが検討されている事例、北米地域では、ブタクサの駆除に関する事例があるようだ(河瀬麻里「海外の花粉症対策と比較した日本の花粉症対策の特性」第123回日本森林学会大会〈2011年〉)。

しかし、前述の世界アレルギー機構の報告資料にもあるように、花粉症増加の要因としては、花粉の飛散量だけでなく、樹木の手入れの状態、排気ガス、人々の食生活や住環境なども影響すると考えられており(※)、花粉症発症メカニズムの研究や、予防・治療技術の進歩、大気汚染物質など一般環境との関係解明などもあわせて行っていくことが必要とされている。

※安髙志穂「国会における花粉症対策に係る議論の動向-国会会議録を分析して-」Journal of Forest Economics Vol.65 No.1(2019)

なお、環境省では「花粉観測システム(はなこさん)」を使って、観測した花粉の飛散状況をリアルタイムで提供してきたが、この事業は3月31日をもって廃止された。現在は、各地方公共団体や民間気象事業者のサイトで情報を収集することができる。

最大600億円弱の薬剤費削減も

国民の4割が花粉症の症状をもつということから、医療費や労働損失も大きい。

2019年健康保険組合連合会の「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅳ(2019年8月)」によると、医療費については、花粉症患者に処方される花粉症治療薬の薬剤費のうち、薬局やドラッグストアでも購入できる成分の薬を保険対象外にすれば、最大で600億円弱の薬剤費削減効果があるとの推計を行った。

また、花粉症による経済損失は、医療費と労働損失をあわせて年間2860億円という推計がある(※)。その多くが労働損失によるものとされており、企業においては医療費の問題よりも深刻である可能性がある。

※ 林野庁「林野庁における花粉発生源対策について」(令和2年8月26日 全国知事会花粉発生源対策推進PT)など。推計は、平成12年科学技術庁「花粉症克服に向けた総合研究」第Ⅰ期成果報告書によるもの

2021年3月にニッセイ基礎研究所が実施した「被用者の働き方と健康に関する調査」によれば、全体の19.6%が「この3カ月間で、病気やケガなどで、体の具合が悪い所(自覚症状)」として、「花粉症/アレルギー性鼻炎」をあげていた。

そのうち、35.9%が花粉症/アレルギー性鼻炎を仕事に影響をもたらしている健康問題の上位2つの症状としてあげており、症状があるときの仕事の効率は、症状がないときと比べて平均63%程度であると回答している。

花粉症は、症状がある期間が長いものの、重篤な症状ではないことが多いことから、通常どおり業務を行うケースが多いが、実際は生産性が大きく下がることがある。

こういった状況から、企業ではプレゼンティズム(健康上の問題を抱えつつ仕事を行っている状態)の課題として捉えており、最近では、花粉症薬や目薬、点鼻薬などを企業が従業員に提供したり、テレワークを導入するなど、働く環境を整えようとする動きがある。

村松 容子 ニッセイ基礎研究所保険研究部 准主任研究員

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むらまつ ようこ / Yoko Muramatsu

死亡・疾病発生リスクについて、統計的にその発生状況を算定すること、および、消費者調査を通じて消費者がどのようにリスクに対応するのかを研究。国が公表している疾病統計以外にレセプトデータ、健診データ、健康に関する消費者の意識調査などを使ってさまざまな視点から分析している。ニッセイ基礎研究所の著者ページはこちら

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