競争がガキとジジイしかいない国を生んだ 平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談(2)

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平川:SMAPって40歳なんですか(笑)。

小田嶋:40歳なんです。いちばん若い香取慎吾でも30代後半じゃないでしょうか。このことって、大きいですよね。だって「SMAPが若者なら、40歳の俺だって若者だよな」ってなるじゃないですか。でも、そうすると何が起きるかというと、ずーっと若者だった人がある日突然、ジジイになっちゃうんです。大人というか、「おじさん」の期間がほとんどなくなってしまうということですね。

子どものほうが断然「使える」

平川 克美●1950年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを設立。1999年シリコンバレーのBusiness Cafe Inc.の設立に参加。現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。2014年、古き良き喫茶店「隣町珈琲」を開店し、店主となる。 著書に『俺に似たひと』(医学書院)、『グローバリズムという病』(東洋経済)、『路地裏の資本主義』(角川SSC新書)、などがある。

平川:「大人がいなくなる」というのは、世の中に「ガキ」と「ジジイ」しかいなくなる、ということなのかもしれないですね。

だいぶ前、僕が企画したシンポジウムに、当時まだオン・ザ・エッジをやっていた頃の堀江貴文さんに出てもらったことがありました。そのとき彼が言っていたのは、とにかく「年寄りは使えない」という話だったんだけど、僕が非常に印象に残ったのは、彼の言う「年寄り」というのがおそらくは「30歳以上」を指していたことなんです。

「30歳以上が年寄り」っていうのは、普通の感覚からしたら違和感があると思うんだけど、彼の尺度からすれば、それはそれで理屈が通っているわけです。30歳を超えた人間は、少なくともビジネスをより先鋭化させ、効率化させていくという点では、だんだん使えなくなっていく。

「若いやつより物覚えが悪いくせに、なまじ経験があるから偉そうにしているようなやつは切り捨てたほうがいい」というのは、それはそれで、一応筋が通った話だとは思います。「大人」なんか必要ない、体力があって、ビジネスをぐいぐい引っ張っていける「ガキ」がいれば十分だ、というわけですね。

実際、競争に勝つということだけ考えるなら大人よりも子どものほうが断然、強いですからね。たとえば議論でも、勝ち負けだけを争うなら、子どものほうが強いじゃないですか。

小田嶋:そうですよね。

平川:大人には建前と本音があるから、どうしても発言に矛盾がある。だから大人というのは、理詰めで議論をしていくと、前後が矛盾して、何を言っているのかわからなくなってくる。子どもはそこを見破って、巧みに突いてくるわけです。「父ちゃんの言ってることはおかしい!」と言われた大人は、もう絶句するしかない。

象徴的なのは橋下徹ですよね。彼の議論っていうのは、終始一貫して子どもです。

たとえば彼がよく展開する「学者は現実的な提案を何もしない。机上の空論ばかり言っていて役に立たない」という批判は、それだけ見れば「おっしゃるとおり」なんですよ。実際、学者というのは現実的には「役立たず」であることが多いから。でも、そもそも社会的に「役立たず」である学者という存在を許容しているからこそ、長期的に見たときに社会は安定する、ということもある。

でも、こういうややこしい「大人の議論」というのは、子どもの単純な議論に負けざるを得ないんです。

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