競争がガキとジジイしかいない国を生んだ 平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談(2)

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平川:そうですね。昔から嘘つきとか、無責任極まりないやつというのはいたんだけど、そういうのを全部ひっくるめて「俺の責任だ」と引き受ける大人がいて、なんとか丸く収まっていた。今、そういう機能が社会から失われつつあるのだと思います。

小田嶋:そういう「それぞれの言い分はわかるけど、ここは俺の顔を立てて、刃を引っ込めてくれ」というような仲裁を成立させるには、論理とか、損得勘定ではうまくいかない。

平川:うまくいかないんだよね。いくら公平に裁定しようとしても、それは結局、勝ち負けがついちゃいますからね。「顔」とか「貫禄」で収めることではじめて、しこりやわだかまりを残さずにいさかいを丸く収めることができるんです。

落語で言えば「ご隠居さん」の位置づけですよ。夫婦喧嘩でもなんでも、とにかくご隠居さんに聞きに行って仲裁してもらう、というのが落語のひとつの話型だからね。

ぶっ壊して来たものの中にあった、大切なもの

小田嶋:ご隠居さんって、ロジックのレベルではあんまりたいしたこと言わないんですよね。

平川:そうそう。どちらにも言い分はあるだろうけど、「ここは俺の顔を立てて、言い合いはやめておけ」とその場を収めるのがご隠居さんの役割だからね。顔を立ててって、なんだよってことですが、そういう役割を担える“大人”がいなくなったことは、社会にとっては大きな損失ですよね。

小田嶋:ただ、ここが面白いところですが、そういうご隠居さんの仲裁がきちんと機能するためには、実は日本古来の上下関係や家族関係みたいなものが前提として必要なんですよね。ご隠居さんに権威があるのは、年配だということもあるけど、そもそもある種の「身分制度」みたいなものが前提になっている。「偉い人の言うことは聞かなければいけない」ということですね。それがなければ、大人というのはちゃんと機能してくれない。

でも、そういう権威的なシステムって、われわれ自身がこの何十年かの間に、否定し、嫌い、壊して来たものじゃないですか。少なくとも、家父長制とか、日本古来の上下関係みたいなものって、私が生涯かけて嫌ってきた価値観です。平川さんなんて、いちばんそういうものをぶっ壊してきた世代ですよね。

平川:おっしゃるとおりです。団塊の世代っていうのは結局、権威という権威を壊してきたわけですから。

小田嶋:そういう意味では、封建制とか身分制度とかジェンダーとか、あらゆる上下関係を解体して、すべての人が対等になる、フラットな社会に近づくなかで失われたもののひとつが、「大人」だということなのかもしれないなって思うんです。

平川:家父長制とか、封建制とかって、見るからに「悪人面」をしています。だからこそ、僕らもそれをぶっ壊そうとしてきたわけです。一方で、それらが壊された後に現れて来たフラットな社会に立ち現れて来た、「人権」「民主主義」「友愛」みたいな、いまの世界を形作っている論理って、非常にきれいな、「正義面」をしているんですね。

でも僕の年齢になると、そういう正義面にうさんくささを感じるようになる。実際、そういう「きれいな顔」をしたものが歯止めなく社会全体に広がることで、非常に厄介な問題を起こしつつある。「大人がいなくなる」ことに僕が懸念を覚えるのは、そういうことなのかもしれません。

(写真:安部俊太郎)

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