競争がガキとジジイしかいない国を生んだ 平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談(2)
小田嶋:橋下さんって、議論ではほとんど無敵なんだけど、なぜ無敵かといえば理由は簡単で、まったく人の話を聞かないからですよね。彼にはいくつか、「既得権益をぶっ壊せ」「役人が諸悪の根源である」といった主張があるけど、彼の議論ってそれらを繰り返し主張するだけなんです。
それに対して何か言う人がいても、「俺の意見に反対なら対案を出せ」といった、いくつか持っている必殺の「切り返しフレーズ」を連呼するだけ。相手の立ち位置とか言い分をしょうしゃくするということなく、ただただ自分が持っている最強の武器で切りかかっていく。これは議論においては、最強といっていいぐらいの戦略です。だから、これまで彼と論戦になった「大人」はボロボロに負けちゃうしかなかった。
でも最近、橋下さんは在特会の桜井誠と公開討論をやって、負けていましたよね。まあ、橋下さんは負けたって認めないだろうけど、あれは橋下さんの負けですよ。最後は「おまえっていう言い方をやめろ、おまえ」とか言っていましたからね。
仲裁役として機能していた「大人」
平川:あれを見ていて「昔、ガキの頃によくああいう喧嘩したな」って思い出しておかしかったんですよ。「誰がそんなこと言ってんだ」「親父がこう言ってた」「いや、総理大臣はこう言ってる」「いやいや、天皇陛下はこう言ってるぞ」みたいなね。僕が子どもの頃は、最後はやっぱり天皇陛下に出て来てもらわないと収まりませんでした(笑)。
小田嶋:なぜ橋下さんが桜井に負けたかといえば、結局、橋下よりも桜井のほうが「子ども」だった、ということに尽きると思うんです。特に終わり際のやりとりは、桜井がなかなかのクリティカルヒットを繰り出していました。橋下が「おまえ、帰れよ」と言ったのに対して、桜井が「呼んだのはおまえだろ! 呼んどいて『帰れ』はないだろう!」と切り返した。これは、桜井の言うとおりだなあと感心しました。
つまり、どうやったら議論に勝てるかというのは、突き詰めると面の皮の厚さにかかっているんです。シンプルな主張を、相手の話を聞かずに繰り返しているやつが勝つ。橋下さんは、まさか自分よりガキっぽいやつと対決することになるとは思わなかったんじゃないかな。
平川:建前抜きの競争社会になればなるほど、大人よりも子どものほうが強くなる。それこそ卵が先か鶏が先か、どちらが先かはわからないけれど、競争社会が進んできたことと、「大人がいなくなった」こととは、リンクしていると思いますね。
そうやって「大人」を駆逐して、「ガキ」と「ジジイ」しかいない社会を作ってきた結果いま何が起こっているか。ひとつは、「責任を取る人」が誰もいなくなった、ということだと思うんです。政治もそうだけど、世の中のニュースを見ていると、とにかく平気でとんでもない嘘をついて、その責任を取らない人が増えているじゃないですか。それは結局、この社会から「大人」がいなくなったことによって引き起こされた問題だと思うんです。
小田嶋:「大人」というのは、子ども同士のいさかいを収める「仲裁者」として機能していたんですよね。議論が起きたとき、双方の話を聞いて「おまえの言いたいことはわかるけど、とりあえずここは俺に任せてくれ」「ここは俺の顔を立てて引っ込んでおいてくれ」っていうのが、大人の役割なんだと思います。