人類の過去についての物語である『サピエンス全史』に続き、その未来についての物語を『ホモ・デウス』で描いたユヴァル・ノア・ハラリ氏。2つの大著に通底するその問題意識について、両著の翻訳を担当した翻訳家の柴田裕之氏に聞いた。
読書の魅力は自らの先入観や固定観念、常識が覆され視野が広がることだが翻訳も同じだ。私は『サピエンス全史』『ホモ・デウス』両著の翻訳を通して、そうした体験を繰り返した。
『サピエンス全史』はかつてアフリカ大陸で細々と暮らしていたわれわれ現生人類(サピエンス)が、21世紀までたどってきた道のりを振り返る。サピエンスが地球を支配するに至ったのは、多数の見知らぬ者同士が協力し、柔軟に物事に対処する能力を身に付けたからだと著者は言う。
これを可能にしたのが「虚構」、すなわち架空の事物について語れるような想像力だ。虚構とは伝説や神話にとどまらない。企業や法制度、国家や国民、さらには人権や平等、自由まで虚構だと筆者は指摘する。こうした虚構を作り替えればすぐに行動パターンや社会構造も変えられるので、サピエンスは遺伝子や進化の束縛を脱し、変化を加速させ、ほかの生物をしのぐことができたという。
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