短期志向で賭けようとすればガタガタになる 長期投資に必要な“推”と“論”

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澤上篤人(さわかみ あつと)●1947年名古屋市生まれ。ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。1980年から96年までピクテジャパン(現ピクテ投信)代表取締役を務める。96年さわかみ投資顧問、99年さわかみ投信を設立。長期投資一筋の資産運用で純資産総額3000億円のファンドに成長。(撮影:今井 康一)

未来は意外に確実だ。「日本悲観論」恐るるに足らず、今こそ長期投資の出番だという。『長期投資家の「先を読む」発想法』 を著したさわかみ投信の澤上篤人会長に話を聞いた。

──持論である日本株への長期投資の絶好機ですか。

この30年、短期運用が踊りまくって、切歯扼腕していた長期投資家は絶滅危惧種のように扱われた。その潮流がこの10年で本格的に変わる。非常に楽しみな段階に入ってきた。

──絶滅危惧種?

ここ30年ぐらい強まった。この間、世界の運用はどんどん短期を志向。それは年金資産が膨れ上がって最大のビジネスになったからだ。世界の運用会社は猫もしゃくしも年金資金を運用させてもらおうと、毎年の成績を追いかける。そこでできた証券化商品は完全に短期志向。たとえば金融工学を使って組み合わせ、年7.3%で回る商品に仕上げたりした。それが金融バブルに至り、ひっくり返った。

──さしもの年金の時代ももうピークアウトですか。

忘れてはならないのは年金制度が整っているのは先進国だけだ。しかも先進国はどこも高齢化。すでに4~5年前からどこの国の年金もキャッシュアウトになり、買う一方だった年金資金が売りの方向に入っている。運用業者たちの淘汰も起こる。

実物投資は長期の世界だ

──となると、実物投資が見直されると。

短期投資主流の時代が崩れてくると、同時に長期投資の再認識が始まる。もともと国連推計によると、今世界では毎日18万5000人ずつ人口が増えている(中位推計)。そして、みんなが豊かになろうとしている。エネルギーや食料、工業原材料、さらに水に対する需要はおのずと高まる。需要を賄う供給力を高めなければならない。それが実物投資だ。年金を礎に暴れまくった金融によって影が薄くなっていたが、実物投資のウエートが高まってくる。そこは完全に長期投資の世界だ。

──ご自身に引き付ければ株式投信ですから株式を通じてですね。

実物投資はおカネを賭けるだけの投資とは世界が全然違う。今おカネを賭ける投資の世界はがたがたになっている。FRB(米国準備制度理事会)をはじめ中央銀行がバランスシートを4倍や5倍にして、必死になって経済がガクンと落ちないようにゆっくり後始末しようとしている。だが、まだ世界中におカネがバラまかれている状況には変わりがない。

後始末には時間がかかる。いっぺんにやろうとしたりしたら金融機関がたくさん潰れるからだ。それを避けようとして無理な状況が続いている。しかし、それはしょせん後始末にすぎない。その“横”で毎日人口が18万5000人ずつ増えていく状況には変わりがない。総需要は高まる一途だ。そこに焦点を当ててわれわれは長期の投資をする。

──長期とは。

まあ10年は見ないといけない。

──そこでの投資先は。

投資先の選定は簡単で、人々の生活を現在サポートし、これからどうサポートしていこうとしているかが基準だ。その際、人々は何を求め、どういう方向でより多くおカネを使うか、将来に向けてイメージする。基本的にマネーが踊り狂うような使い方は外す。よりよい生活にしたい、より豊かな生活にしたいを眼目に置くが、それは国によっていろいろなレベルがある。日本はある程度豊かになっているから、質重視の方向だ。

発展途上国の場合はものすごい勢いでとにかく豊かになろうとして動く。より豊かな生活を求める気持ち、それをイメージして投資分野を発想する。たとえばエネルギーは絶対必要、エネルギーはどうなっていくのか。供給はどうするのか。可能なかぎりデータで押さえる。そこで“推”と“論”が有効になる。気をつけなければいけないのは、金融、おカネで賭けるイメージではなく、人々の10~20年先の生活を見据えて、それに対してどの実物が大きくなっていくのか、何に需要が高まっていくのかを想像することだ。

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