日銀のバランスシートを分析する 2度にわたる異次元緩和がはらむリスクとは?

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国債は、一般的には安全資産だと考えられていますが、価格変動リスクがあります。それも残存期間が長いものであるほど、価格が変動するリスクが高いのです。詳しい説明はしませんが、国債をはじめとする債券は、市中金利が上昇すると価格が下落します。価格変動リスクがあるわけです。そして、繰り返しますが、その価格変動リスクは、残存期間が長いほど、大きくなります。

万が一、中央銀行が保有国債などの価格下落で不良資産にあえいで、信用が失われるようなことがあれば、大変な事態になります。まず、通貨は中央銀行の信用によって発行されているわけですから、通貨の価値は即座に失われ、場合によっては、紙くずになってしまう恐れがあります。

そうなりますと、当然、大幅な円安となりますから、海外から輸入するモノの価格も高騰します。例えば、今、ドル/円レートは1ドル=120円前後(12月5日現在)で推移していますが、万が一、これが1ドル=1000円まで円安が進んでしまったら、エネルギーやモノの価格が急上昇し、国民は窮乏生活を余儀なくされるでしょう。

また、中央銀行は「銀行の銀行」の役割もあります。通貨の価値が急落すれば、当然、市中銀行も混乱するわけですが、市中銀行を救うはずの中央銀行が危なくなれば、市中銀行を助けることなどできなくなります。こうして、国内の金融システムは大混乱に陥ってしまうのです。

すでに金融市場は歪みつつある

このようなリスクを極力避けるため、日銀は国債の買取りに関して、先に述べた「日銀券ルール」を以前は厳格に守ってきました。ところが、異次元緩和では、このルールを全く無視して国債をどんどん買い入れています。さらには、買い入れる国債の平均残存期間も、今回の2回目の緩和では、7年まで延ばそうとしているのです。

もう一つ、私たちが注意しなければならないことがあります。異次元緩和が始まって以来、日本の金融市場に歪みが生じているのです。

政府が国債を大量に発行した場合、一般的には金利が上昇します。ところが、今は政府が国債を発行し、民間金融機関が短期間だけ保有して、すぐに日銀が買い入れる形になっていますから、金利が上がらないのです。

これは、中央銀行がマネタリーベースの増加により株価を押し上げ、金利の上昇を抑えるという相場をつくり出しているとも言えます。まさに「官制相場」です。こんな状況は、いつまでも続くわけがありません。

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