やっぱりアメリカのインフレは沈静化しそうだ 4つのインフレ要因のうち3つに「明るい兆し」

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他方、株式市場にとって明るい話題と言えば、アメリカ国内でインフレ終息の兆しが散見されていることである。(1)サプライチェーン問題、(2)家賃、(3)労働コスト、(4)エネルギーという4大インフレ要因のうち3つに明るい兆しがみられている。

サプライチェーン問題については、ロシアに対する経済制裁によって再び悪化するリスクがあるものの、アメリカ製造業PMIの「サプライヤー納期指数」が短縮化基調にあり少なくとも2月まではその傾向が続いていた。また世界的に自動車生産が底打ちするなどサプライチェーン問題の回復を示す状況証拠がそろいつつあり、そうした下で中国発のコンテナ船運賃指数もようやく上昇が一服した。

もちろん、これら指標が今後も改善傾向を維持できるかは予断を許さないが、大きくみればサプライチェーン問題は快方に向かっていると判断される。それを裏付けるように、企業の価格設定スタンスを示す指標も改善傾向にある。消費者物価に6カ月程度の先行性を有する、NFIB(全米自営業者連盟)中小企業サーベイの「販売価格計画」は過去数カ月、下向き基調に転じており、向こう数カ月で消費者物価上昇率がピークアウトすることを示唆している。

株式市場の引き締め警戒が和らぐ可能性も

次に住宅価格も一服感が認められている。消費者物価の「家賃」に一定の先行性を有するケース・シラー住宅価格指数は12月に前年比プラス18.56%と伸び率が鈍化した。依然として高い上昇率にあるが、過去の経験則に鑑みれば、消費者物価の家賃はしばらく上昇基調を強めた後に鈍化が予想されそうだ。消費者物価の約3割を占める家賃が落ち着けば、インフレの基調に大きな影響を与える公算は大きい。

労働コストについては多くのデータがあり、それぞれ異なるメッセージを発しているが、賃金インフレが落ち着く兆候も散見される。前出のNFIB中小企業サーベイで3カ月先の「人件費計画」に目を向けると、こちらも下向き基調にある。人件費の高騰で、もはや企業側が労働コスト増加を許容できなくなっているのだろう。

そうしたなか2月のアメリカ雇用統計は労働市場の量的回復を示した。復職する人々の増加は、人手不足感の解消に貢献し、やがて賃金上昇圧力の低下に寄与すると考えられる。これらから判断すると労働コストの増勢がピークアウトする可能性もある。

現在、FED高官はインフレ退治に一枚岩となって取り組んでいる。しかしながら、今後インフレ沈静化の兆しがより明確化してくれば、一部のハト派メンバーが景気に配慮する姿勢を示し、金融引き締めの合唱から離脱するのではないか。長短金利差が縮小するなか、そうした声がFED内部で上がるのは自然な流れに思える。そうなれば、株式市場の引き締め警戒は和らぎ、株価は底堅さを取り戻すと思われる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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