通貨模造容疑でまさかの有罪
こちらの3点は2年後の同じ展覧会に出品された。左右の『事実か方法か』は、友達に借りた絵を梱包したもの。絵画の役割を否定しているように見える。
真ん中の『復讐の形態学(殺す前に相手をよく見る)』は、千円札をルーペで見て、数カ月かけて克明に拡大模写している。
「絵画にふさわしくないものを描いています。自分は絵画をやめる、絵画でできることはやり尽くした、というニュアンスが感じられます。この頃から、絵画、オブジェなど、モノとしての作品に興味を失い、パフォーマンスが中心になっていきます」
ところが、ここで事件が起きる。拡大模写にとどまらず、千円札を印刷し、それで作品を作ったため、通貨模造の疑いをかけられたのだ。裏面には印刷せず、明らかに使用できないものだったが、紛らわしいものを模造した容疑で起訴され、裁判で争うことになった。
第一審・第一回公判では、弁護側の証拠として仲間のアーティストが作品を持ち込み、法廷が前衛美術の展覧会場のようになったという。判決は懲役3カ月、執行猶予1年。芸術と司法の闘いは新聞や週刊誌に取り上げられ、社会的な事件になった。
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