鉄道の定時運行、裏側はこうなっている! 『東京総合指令室』を読む

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セキュリティは非常に厳しく、写真撮影もNGだったそうで、本書には指令室の写真は1枚も載っていない。ただ、代わりにスケッチや資料を元にして著者が作ったイラストがあるので、それである程度様子が掴めるようにはなっている。実際、JR東日本の社員でも入るには複雑な手続きが必要で、一部の人しか入ったことがないという。当然取材を受けた例も少なく、分厚いベールの内側を垣間見せてくれる本書の存在は貴重に違いない。

1万人も収容できるほどの広さに圧倒

著者が中に入った時、まず驚かされたのがそのスケールだという。指令業務を行う部分の床面積だけでも、最大1万人を収容できる「東京体育館のメインアリーナ」より広い。通常、そのスペースで勤務しているのは150人程度なので、人が極端に小さく見えるそうだ。

そこに一般的なデスクワーク設備に加え、モニター画面や受話器、マウスなどが並んだ操作端末やダイヤ印刷用の巨大なプリンターなどの特殊機器が多数設置されている。それらを用いて運行状況を把握し、ダイヤが乱れたら復旧の計画を練って現場に指示を出したり、乗務員や車両のやりくりをしたりと様々なサポートをするのが指令室の業務だ。詳細は本書に譲るが「指令」にも色々と分類があり、東京総合指令室では「輸送指令」「運用指令」「営業運輸指令」「設備指令」の4種類の指令業務を行っている。

概要はこのくらいとして、実際の指令の雰囲気はどのようなものなのか。著者曰く、平常運行時は一般的なオフィスと変わらず、「100人以上の人が勤務しているとは思えないほど、静かだった」という。

しかし異常が起きれば一転、瞬く間に静寂は破られる。

「……『ピピピピ!』という異常を知らせる甲高い警告音が広い室内に鳴り響いた。その瞬間、指令員の空気が急に張りつめる。その場にいた指令員の顔つきが瞬時に変わり、機敏に動き出す。

『障検動作です!』

若い指令員が、両手を口に当てて大声で叫ぶ。

─(中略)─

すると、そのブロックにいた指令員たちが慌ただしく動き始める。

『場所はどこ?』

『運転士に確認!』

『東海道線○○踏切で踏切直前横断です!』

状況確認や指示をする声が速いテンポで飛び交う。声が重なって聞き取りにくくなるので、指令員の声はどんどん大きくなり、騒然となる。徐々に声が声でかき消され、遠くで聞くと内容が判別できなくなる。……」

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