クラウドの導入は、IT資産のオフバランス化にとどめず成長戦略としての視点を
「日本企業には情報戦略がない」。情報処理推進機構(IPA)オープンソフトウェアセンター長の田代秀一氏は心配する。
米国系企業では「情報システムの構築こそが競争力の源泉である」と考えるのに対し、日本企業はコスト削減の手段としか考えていない、という。兼任を含め、CIO(最高情報責任者)を置く日本企業は3割程度にすぎず、多くは総務系の部課長クラスが兼務でIT部門を管理する程度。これでは戦略的なIT活用は難しい。
過去、企業のIT投資は場当たり的に進められてきた。この結果「冷めたスパゲティ」と揶揄されるように、システムが複雑に入り組み、なおかつ相互に依存し合っているため、うかつに触るとシステム全体が停止してしまう危険すらある。当時の設計者が定年や転職などで退職し、その仕組みを知る者すらいない。
何とかしなければならないが、自社用にアプリケーションを改変してあるなどの問題があり、ハード、ソフトのベンダー間の責任の所在があいまいになり、ブラックボックスになっていることも多い。効率化のために導入されたIT資産が、企業活動のお荷物になりかねない。
クラウドの導入は、こういった古いシステムを整理するためのチャンスだ。だが、すべてのIT業務をクラウド業者に丸投げできるほど単純ではない。パブリッククラウドに移行して差し支えないもの、企業内にとどめておくべきもの、クラウド化すべきものとそうでないもの、こういった仕分けはもちろん、IT戦略の見直しの覚悟が要求される。
資産スリム化だけでは不足
クラウド導入を検討する企業にとって、最大のメリットはIT資産のオフバランス化だろう。クラウドサービスは課金制が前提であり、設備投資ではなく費用としてとらえられる。バランスシートのスリム化を図れるのは、大きな魅力だ。だが、それに目を奪われて見逃してしまいがちな問題がある。