ミタルの大胆買収、鉄鋼最大手への立志伝 個人資産600億ドルの"富の神"

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事業展開する国についてのミタル氏の判断は非常に鋭いものがある。旧ソビエト連邦が財政面での混乱にあえぎ、逆に中国では好景気で高層ビル、高速道路や空港を建設するために鉄鋼の需要が高まるという局面では、カザフスタンで製鉄所を買収した。こういった機動的な買収を重ね、ついにミタルは15カ国で事業を行う世界的な鉄鋼メーカーとなった。

そして2006年、世紀の大買収に打って出る。スペイン、フランス、ルクセンブルグ、ベルギーの複数企業が合併し誕生したアルセロール社の買収だ。ルクセンブルクに本社を置く業界第2位のアルセロールの経営陣は当初、240億ドルというミタルのオファーを断った。だが、最終的にミタルは335億ドルでアルセロールを手中に収める。

ほとんどの合併、特に注目を浴びるような合併は、契約締結時に思い描いていた期待に応えられないものだ。取引額が大きいほど失敗の可能性が高いといってもいい。ところが、ミタルによるアルセロールの合併は恐ろしいほどうまく機能した。M&Aやビジネスコンサルティングにかかわる専門家は、近年で最も成功した大型企業合併と評価するほどの成功である。

この大型合併が実現し、成功した秘密は、ミタルが数多くの企業買収を成功させてきた実績を積んでいるところにある。ミタルは企業を束ねることにかけては熟知・熟練しており、多数の企業を束ねていく運営術が企業のDNAに組み込まれているといっても過言ではない。

幸いにも、アルセロールも同じようなDNAを持つ企業だった。アルセロールも複数の企業が合併してできた企業であり、やはり合併ということについて熟知した経営陣が揃っていたのである。

最大手になってからも、さらに買収

このDNAは両社の「結婚」によってさらに強まっている。ほとんどの企業では、大きな取引が終了し、買収した企業の統合過程にさしかかるとさらなる企業買収の欲求は起きないものだ。ところがアルセロール・ミタルは、今でもなお、世界中で小規模企業や埋蔵鉄鉱石を買い続けている。個別の製鉄会社を一元管理のもとに統合すれば、製造、マーケティング、輸送業務、さらには価格決定を可能な限り効率化することで競争力を維持できるからだ。

グローバル経営によるメリットは大きい。ある国で過剰生産能力があったとしても、他エリアの需要を満たすために振り替えることもできる。その時点で最も費用の低いところで製造し、必要とされる場所へ輸送することもできる

「大胆さがすべてを変える」というアルセロール・ミタルの新しい企業スローガンは、ミタル氏の仕事の進め方を反映したもの。そのミタル氏が見据える次の市場は、母国インド。言うまでもなく、インドではインフラや鉄道の建設が進み、より多くの鉄を必要としているからだ。

帝羽 ニルマラ 純子 インドビジネスアドバイザー

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ていわ にるまら じゅんこ

インド共和国・バンガロール生まれ。法政大学大学院修了。来日以来14年間で、日印コンサルタント会社起業を経て、現在インドビジネスアドバイザーとグローバル人材トレーナーとして活躍。著書には、2013年にインドの諺について日本語で解説した『勇気をくれる、インドのことわざ』がある。インドの諺を日本語で紹介する本の発行は、長い日印の歴史でもこれが初。2014年には『日本人が理解できない混沌(カオス)の国 インド1―玉ねぎの価格で政権安定度がわかる!』 『日本人が理解できない混沌の国インド2―政権交代で9億人の巨大中間層が生まれる』発行。

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