トヨタ、700万円「FCV」で見据える未来 世界に先駆けて一般向けの販売を開始

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STは1拠点の建設費だけで4億~5億円、運営費は年間数千万円かかる。FCVがいつ発売されるかわからない状態だと、インフラ事業者は建設に踏み切れない。一方、トヨタ社内ではSTがないのにFCVを出して売れるのか、という議論が続いていた。

ニワトリ(インフラ)が先か、卵(車)が先か。いずれにしても、誰かが踏み出さないとFCVは動き出さない。その決意をトヨタがした。通常、トヨタは発売前の車両を、積極的に見せることはしない。が、今回のFCVは違った。昨年10月に開発最終段階の車両を公開し試乗会を行った。翌11月の東京モーターショーでは、市販車に限りなく近い外観を公開。今年6月には、700万円台で14年度中に発売すると発表している。異例ともいえる露出ぶりは、補助金など政府の支援を求める狙いのほかに、インフラ事業者の背中を押すことが最大の目的だった。

トヨタがホンダに”お願い”

価格についても同様だ。ほんの5年前、1台1億円ともいわれたFCVの価格を、システムの小型化や材料・製造工程の改善で、723万円に抑えた。ただし、開発費などを含めれば、間違いなく赤字である。それでも、「一般の人に買っていただくには、700万円よりさらに安くしないといけない」(前出の田中主査)と言う。

国の購入補助金202万円を差し引けば、クラウンのハイブリッド車(HV)並みの価格だ。さらに支援策を打ち出した地方自治体(東京都は約100万円)もある。初年度の国内販売400台計画に対し、官公庁を中心に200台受注している。そうした努力の甲斐あってか、ミライの発売時点で、東名阪を軸にSTは約40カ所まで増える予定。当初は販売地域をST周辺に絞り、整備状況を見ながら少しずつ拡大していく方針だ。

企業や個人からの購入希望も1000台近くあり、15年後半に米欧で販売する。当初年間700台の生産能力の増強も計画している。ただ、普及という意味では、程遠い数字である。加藤副社長は18日の発表会の席上、「ホンダさんも早く参入いただきたい。われわれは待っている」と語った。これは余裕の勝利宣言ではなく、切実な願いだ。

大手自動車メーカーはいくつかの陣営に分かれてFCVを開発している。彼らはライバルであると同時に、まったく新しい車の普及を図るうえでの“同志”でもある。

「週刊東洋経済」2014年11月29日号<11月25日発売>掲載の「核心リポート02」を転載)

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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