工作で誰もが使う「ヤマト糊」の圧倒的強さの秘密 家訓「一代一起業」が生んだイノベーション

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たとえば、納品時のスマートフォンの液晶に貼られている保護シートだ。あるいは、冷蔵庫の扉、冷蔵庫内の可動式棚や引き出しなど、至るところを固定しているシールなどもそうである。いわれてみれば、新品で購入した電化製品を使い始める際には、必ずいくつも保護シールや固定テープを剝がすことに気づく。ヤマトは、こうしたテープ、シールの類も加工販売している。

さらに、先ほど触れたインダストリー事業部の事業内容には「原子力産業」もある。これは自動車産業や製紙産業以上に想像がつかないのではないだろうか。原子力発電所には定期的に検査が入る。その際には精密機器などを保護する必要があるのだが、ヤマトは、そこで使われる養生テープを販売しているのだ。

これは、ただの養生テープではない。原子力発電所で使われたものは、放射能汚染のリスクがあることからすべて焼却処分しなくてはいけない。焼却の際に有害ガスを発生させないことも義務付けられており、ヤマトの養生テープは、「環境負荷がない」という専門検査機関のお墨付きを得ている。

「くっつける」エキスパートとして

このように多岐にわたるヤマトの事業だが、内実を知ってみると、すべてにおいて「くっつける」という企業理念がみごとに通底していることがわかる。それにしても、これだけ分野の異なる幅広い業界との付き合いは、いかにして始まったのか。一番のきっかけとなったのは3代目・澄雄が取り付けたスリーエムとの業務提携だった。

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スリーエムは産業向けの接着剤なども製造している。当初、ヤマトは文具の販売を請け負っていたが、どちらからともなく、産業向けの製品も日本で展開してはどうかという話になった。そこで当時の営業部員たちが国内の各産業を営業して回り、販路を開拓したという。

こうして産業界とのつながりが構築され、やがては産業界の各方面から、何かと何かを「くっつける」ことに関して相談や要望が舞い込むようになった。そして今のような幅広い産業向け商品を販売するに至っているというわけである。ある社員は、こう話す。

「『くっつける』ということを起点に多方面に展開していく。当社はそういう水平展開が得意な会社なのかもしれません」

たしかに、古くは木内弥吉が考案し、継承したヤマト糊から、事務用液状のり、インダストリー事業、さらにはホビー・クラフトと、「物と物をくっつける」というたった1つの機能を横へ横へと派生、拡大させるかたちでヤマトは事業の幅を広げてきた。それが長谷川家の「一代一起業」のかたちである。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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