「自分は偉い」と他人を蔑む人こそ何とも空しい訳 水木しげるが描いた「空腹で暴れた剣豪」の本質

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©水木プロダクション
妖怪マンガで有名な水木しげるさん。ただ、それは水木作品のほんの一側面にしかすぎません。水木マンガの真髄は、本質をえぐる鋭い人間観察と、時には非情なほどシビアなリアリズムにあります。
「優等生で居続けたいと無理重ねるのがしんどい訳」(3月27日配信)に続いて、水木マンガの珠玉のセリフを厳選しまとめた『冴えてる一言 水木しげるマンガの深淵をのぞくと「生きること」がラクになる』より、人間の真理を看破した「一言」をご紹介します。

「たかがぼたもちのあとさきで」

「俺はむしろ品位という名の下に、人を軽蔑する快感にひたるくせがあった」 

剣豪・宮本武蔵とて生身の人間である。

短編『剣豪とぼたもち』は、宮本武蔵が茶店でボタ餅を注文するところからはじまる。

そのとき、武蔵は機嫌が悪かった。空腹の上に自分が先に注文したはずのボタ餅が、三人の駕籠かきに先に出されたからだ。しかし、武蔵は我慢する。「過去の英雄、豪傑はみだりにおこらないと、ものの本に書いてあった……」からだ。

ところが、二皿目のボタ餅もまた駕籠(かご)かきたちに供される。武蔵は怒りのあまり、自分でも驚くような大声で叫んでしまう。

「いいかげんにしないかーッ」

彼の胃はボタ餅への期待ですでに胃液が「もたついていた」のである。

ところが、駕籠かきたちは驚きもせず、太々しい表情で武蔵を振り返って言う。

©水木プロダクション

「たかがぼたもちのあとさきで、ライオンのように吠えたてるでねえか」

武蔵はここでもぐっと堪える。たかがボタ餅のことで駕籠かきと言い争ったとあっては、武士の品位が傷つくと思ったからだ。

そこで冒頭の一言、「俺はむしろ品位という名の下に、人を軽蔑する快感にひたるくせがあった」(「品位」には「えりいと」とルビがふってある)が出る。

品位を保つということは、自分ひとりのときは立派な行為である。しかし、周囲に人がいるとき、品位を保とうとする人の心の奥底には、〝品位のない人を軽蔑する快感〟が潜んでいるのではないか。

少なくとも、私はそうだ。この一言に出会うまでは、気づかなかったけれど。

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