「格差をリセット」する教育本来の機能を取り戻せ 橋爪大三郎氏に聞く「大学システム改革論」前編

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いまは国立大学の学費も高くなり、年額50万円ほど。私立大学とそんなに変わらない。私立は70万円から100万円以上ですね。もちろん、それ以外にいろいろな経費がかかります。

東大の合格リストを見ると、私立の中高一貫校が圧倒的に有利だとわかります。私立はそれなりに学費がかかるので、負担し切れない家庭が多い。

それだけではない。データによると、家計は、学校に支払う学費とほぼ同額の、学校外教育費を負担します。ピアノなどの習い事もあるが、中心は塾・予備校・家庭教師の費用。これも負担しないと、なかなか進学に結びつかない。一流どころの大学を出るまでに、1人1500万~2000万円かかる。すると、ギャロウェイさんの上着のように、それがまかなえる家庭と、そうでない家庭で、はっきり差がついてしまうわけです。

これが日本の教育の現状です。この20年間、勤労世帯の所得は目減りしているのに、学費は値上がりする一方です。

教育は「親世代/子世代」のリセットボタン

本来、教育は、子どもの可能性を伸ばすもの。親世代と子世代の間のリセットボタンであるべきです。本人の能力と適性と努力によって、その人の人生を歩む。すべての人が能力に応じて働きましょう。自由な活力ある社会の、入り口が教育です。

ところが、それが壊れている。しかし、日本は、壊れていることがわかっておらず、直そうともしていません。「お金を払えばいいや」と思う親もいる。「払えないから仕方ないや」と思う親もいる。政治、経済などの勉強が足りず、自分の頭で考えないのです。

このしわ寄せを受けるのは、子どもです。そして、社会も打撃を受けます。

税金を使って大学の学費をタダにすべきではない。いっぽう、いまの高すぎる学費を放置すべきでもない。となれば、奨学金を充実する。そして、大学のコストを抑えて学費を下げる。誰が考えてもこれ以外にないのです。

教育のコストは、主に人件費です。小中高にも大学にも、大勢の教員がいる。そして、設備費も必要です。特に、医学部や理工系はべらぼうに費用がかかります。

さて、これを誰が負担するのか。小中高は、国が税金で負担しているし、負担すべき。全員が行くからです。大学はどうする。国立大学は、昔から税金で運営してきたから、学費は安め。私立大学は、就職が良いから、多少学費が高くても我慢、みたいにやってきた。

でも大学は、自己負担を原則にすべきだし、自己負担にできるんです。大学を卒業すれば、所得が高くなって本人にメリットがある。だから、本人負担にするのが合理的だ。

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