「格差をリセット」する教育本来の機能を取り戻せ 橋爪大三郎氏に聞く「大学システム改革論」前編

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でも、ここで話がねじれてくる。学生は、収入がないのです。だから現状では、親の負担で大学に行く。すると、親の所得で進学するか否かが左右されてしまう。その結果、能力もやる気もないのに大学に行く(不適切進学)、能力も意欲もあるのに進学できない(不適切不進学)の、2種類のエラーが起きてしまう。本人にとっても、社会にとっても、大きなマイナスです。

オンライン授業は「コスト減」に効果大

大学にコストがかかるのは、少人数の対面授業だからです。コロナのおかげで、リモートで授業ができることがわかった。リモート授業でよいのなら、教育の質を落とさず、人件費も施設費も劇的に削減できます。たぶん大学4年間が、50~100万円ぐらいですむだろう。学生にとってこの恩恵は大きい。

でも大学は、こういう改革を言い出しません。教員の人員整理につながるからです。現状にしがみついて、どんな改革にも反対するでしょう。

それなら新しく、激安のオンライン大学をつくるしかない。アメリカに真っ先に現れるだろう。この方向にしか、未来はない。

15年ほど前、私は、アメリカの大学の授業をVTRにして日本の授業にしようと計画したことがあるんです。

勤務校は理工系の国立大学で、英語でやる授業を増やしたかった。でも日本人の教員は英語が下手。英語圏の教員を採用してもすぐ退職して帰国してしまう。そこで、海外の授業をもってくればいいと考えて、アメリカの某私立大学に相談に行った。

すると、教育担当の副学長が言うには、私たちも私大20校が連合を作り、毎年の定番講義を録画して、共有して使い回そうと計画中です。それなら、教員の労力は大幅に減る。そのVTRを使えばいいじゃないですか。

その後、私は担当を外れ、この話は立ち消えになってしまったのですが、いまならIT環境も整備され、ずっとやりやすくなっているはずです。

ギャロウェイ氏も言うように、大学はあまりに旧態依然だ。40年前と同じことをしていて、学費は10倍以上になった。キャンパスは要るのか、教員は要るのか、という話なのです。

途上国のなかには、国内にちゃんとした大学がなく、学生を海外へ高い費用で派遣しなければならない国がたくさんあります。そういった国こそリモートで授業を行えば、教育レベルがぐんと上がり、しかも費用は抑えられます。これは、世界全体にとっていいことです。

MIT(マサチューセッツ工科大学)は10年以上前から、講義のシラバスを世界に公開しています。このやり方は世界に恩恵をもたらすが、アメリカの国益にもなるでしょう。アメリカの教育に世界が合わせてくれるからです。こういう発想がない日本は、とても遅れています。

オンライン授業は高等教育を劇的に変えるのです。

(構成:泉美木蘭、後編へ続く)

橋爪 大三郎 社会学者、東京工業大学名誉教授

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はしづめ・だいさぶろう / Daizaburo Hashizume

1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『一神教と戦争』(集英社新書)など。

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