「格差をリセット」する教育本来の機能を取り戻せ 橋爪大三郎氏に聞く「大学システム改革論」前編

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著者の家庭環境では、大学進学は厳しかった。割安の州立大学になんとか進学でき、人生が拓けた。「運が良かった」という。でも、そうでない人もたくさんいるわけです。

いま、アメリカの大学の学費はべらぼうに高く、富裕層の子どもでないと進学しにくい。その学費をタダにすれば、富裕層に税金をプレゼントするようなもの。政策として完全に間違っている。私も著者と同意見です。

20年ほど前、民主党(当時)の文教部会に呼ばれたことがある。国立大学の学費をタダにしようと相談していた。アンタたちは社会主義政策をわかっているのか、と私は怒った。

国立大学の学費をタダにすれば、逆配分。富裕層に税金をあげますという話です。高校までは学費無料がいいが、進学率が30~50パーセント程度の大学をタダになんかしてはいけない。いまでもまだ、大学の学費無償論はけっこう生き残っているでしょう。問題の根本がわかっていないし、それを考える力もない。だから変なことを言い出すわけです。

ギャロウェイさんは、問題点を正しく指摘し、解決策も正しい。信頼できると思いました。

教育費が貧しい家庭を追い詰める

ともかく、大学の学費は高すぎる。

橋爪 大三郎(はしづめ だいさぶろう)/社会学者、東京工業大学名誉教授。1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『 【完全版】選択・責任・連帯の教育改革』(勁草書房)、『世界史の分岐点』(SB新書)など。

アメリカの私立大学だと、年額5~6万ドル(600万円)です。世帯の平均年収は5~6万ドル。どうやって払います? 日本は、そこまでではないが、似たようなものです。日本の大学も、富裕層の子どもばかりになりつつある。

データを見ましょう。親の所得は、1960~70年代だと、慶應大学がトップだった。早稲田には、貧乏な苦学生も大勢いた。国立大学には、地方の公立高校からコツコツ勉強して入る学生も結構いたんです。

それが90年代後半になると、東大の親の平均所得が、慶應を追い抜いてしまった。東大はいま、日本でいちばん親の所得が高い大学になっている。

昔は、国公立大学と私立大学で、学費に大きな差がありました。ちなみに、67年東大入学の私の学費は、月1000円だから年額1万2000円。そのあとすぐ3倍になったけれど、まあ安かった。私立大学は当時でも数十万円だから、一浪しても国立大学に行くほうが合理的だった。

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