「休日仕事してますアピール」が心を貧しくする訳 経済学者も陥った「幸福感蝕むワーキズム」の罠

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「ワーキズム」という言葉も秀逸です。これは過度にワークを尊ぶイデオロギーのこと。そう言葉で表現されると、自分がそのイデオロギーにどっぷり浸かっていると認識できます。そういうわけで、私はワーキズムを捨てました。捨てることができたのは、それをもっていると認識できたからです。

この本の著者は、依頼や誘いに次々と「イエス」と応えて、後で我に返って「いったい自分は何を考えてすべて引き受けてしまったのか」と思うことがあるそうです。お前は俺かと思いました。

難しいですよね。人との出会いや、新しい仕事は、何がどう次につながるかわかりませんし。でも事前に「今日は無駄な時間を過ごすだろうな」とうすうす思っていたことは、まず当たります。だから事前の取捨選択は、もう少しきちんとしたほうがいい。

「八方美人」ではなく「四方美人」に

私は八方美人なところがあって、何にでも「イエス」と言いたいし、それでよかったこともたくさんあります。ただ、その度が過ぎて、自分や周囲を大切にできないことがあった。それで八方ではなく、四方美人くらいに減らしました。まだ多いのかもしれないけど、幸いにも面白い人やエネルギーが強い人が声をかけてくださることが多いので、今のところこれ以上減らすつもりはありません。

人間は「苦労は報われるはず」だと考えがちです。心理学でいう「公正世界仮説」です。

この考えは「苦労に見合った報酬をもらうべき」という考えと相性がよいです。「商品の価値は、投じられた労働量に応じる」という、マルクス的な労働価値説とも馴染みます。ぜんぜん資本主義的ではない。

大雑把な言い方ですが、資本主義社会では、客に提供する価値に応じて対価が支払われます。客にとって、基本的には、提供側の苦労はどうでもいい。もちろん提供側が「こんなに苦労しました」と語ると、客がその物語に金を払うということは起こりますが、それはあくまで「苦労マーケティング」の結果起こることです。

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