被害者の遺族と関係者も、クリーンとは言えない。
ナナの父親で引っ越し会社を営むタイス(ビャールネ・ヘンリックセン)は、よき家庭人であるが、見た目はこわもてで血気盛ん、過去には警察ざたもあったようだ。ナナの母親ペニレ(アン・エレウノーラ・ヤーゲンセン)は娘の死にショックを受け、次々と容疑者が浮上し、捜査が難航するうちに精神が不安定に。最初はタイスを頼りにするが、しだいにある疑惑が芽生えていく。
ペニレの妹シャルロッテや、タイスの会社の従業員で、タイスの右腕的な存在でありラールセン一家とは家族も同然のヴァウンは、献身的に悲劇に見舞われた一家に尽くしているが、彼らにも裏の顔が……? そして、ナナ自身にも、何か隠し事があったであろうことは想像できる。
警察にも疑惑は生じる。
これまで部署を転々としてきたマイヤは、キレやすく危険な感じもあるし、ルンドの上司の警部ブシャールと、その上の警察副局長ブリックスは本当に信用できるのか疑わしい。見え隠れする政界とのつながりは、事件の捜査に圧力をかける、あるいは証拠の隠蔽などの不正が行われる可能性を示唆しているかのようでもある。
かくして、ルンドは己の勘を頼りに強い信念の下、執念の捜査を展開していくのだが、このルンドというキャラクターが、実に強烈なのだ。シャーロック・ホームズのように天才的なひらめきと並外れた頭脳で事件を解決、という名探偵タイプではない。ともすれば遠回りしながらも、あきれるほどしつこく、うんざりするほど粘り強く犯人探しをあきらめない、昔気質の刑事である。
頑固一徹、しかめっ面のキャラ
海外の刑事ドラマの刑事たちは、大抵は仕事にのめり込み、家庭は崩壊し、それでも悪を許せない正義感や高い職業意識の下に優秀な刑事として、しかし人としてはいかがなものかといった、孤独な人生を送ることになるパターンが少なくない。頑固一徹のルンドは、そうした刑事像の最高峰の部類に入るだろう。
決して美人とは言えず、髪は後ろで無造作に束ね、しかめっ面や仏頂面が多く滅多に笑顔を見せない。DVDのジャケ写はかっこよくトレンチコートで決めているが、本編ではデンマークのフェロー諸島産の手編みのセーター(日本円で約3万2000円とか)がトレードマークで、愉快な人物ではないがリアリティがある。正直、恋人も息子も母親も、周りにいる人は大変だろうなと思う。それでも、このシリーズの肝はルンドのキャラクターにあることは確かだ。
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